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『 ヒゲを剃ったのに なんてぇこった! 』 |
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その日、寝不足のせいか、圓窓はやることなすこと調子が悪かった。 宅急便で先着していた落語グッズの数が合わない。梱包するとき、数を間違えてい たようだ。それに、踊りの伴奏のテープが鞄の中に入ってない。昨夜、机の上に出し ておいたのに。日帰りのつもりでいたら、帰路のチケットを見ると、翌日の日付がう ってある。 あるつもり、入れたつもりがみなその通りになってないのだ。 こういう日は連鎖反応的に高座の噺もとちり勝ちになるものだ。 身を引き締めて[ぞろぞろ]に入った。 稲荷信仰のおかげだろう。 茶店の天井からぶる下がっている一足のわらじを、客が買おうとして引っ張る たびに、新しいわらじが一足、ぞろぞろっと出てくる 次の客も、まあ次の客も、引くたびに新しいわらじが、ぞろぞろっ。 このぞろぞろわらじが評判となって、店はえらい繁盛。 この茶店の前の流行らない床屋が真似をして「わらじ同様、床屋もぞろぞろ繁 盛しますように」と稲荷にお参りをした。 親方が店に戻ると珍しく客がいるではないか。 その客の顔をツーッとあたると、あとから新しい髭が、ぞろぞろっ! ところが…… 袖で目撃した窓輝の証言 「やぁ、びっくりしましたよ。 いえ、今日はいやなことが続いているんで、相当に気を引き締めた高座でした。マ クラから、ずぅーっとよかったんですよ。 あたしも、ほっとしました。 師匠も演ってて『やれ、安心』という気になったんでしょうが、瞬間、肝心の落ち のところで気がゆるんだんでしょう、 『その客の顔をツーッとあたると、あとから新しいわらじが、ぞろぞろっ!』 って、やっちゃったんですよ。 あたしが『ああぁっ』たってもう駄目ですよ。落ちですし、師匠はとっとと高座を 下りてきましたよ。 師匠はたぶんショックでしょうし、あたしは機嫌でもとろうと『落ちを改良したん ですか?』って言ったら、『間違ったんだよ。そんなことわかんなくて、どうすんだ っ』って、こっちが怒られましたよ。 でも、『顔からわらじがぞろぞろ』って、映画の”千と千尋の神隠し”以上ですよ ね。 この落ちでドイツへ行って演れば、なんか、賞を貰えるんじゃないですか」 |
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NG落語拾遺集 1 | |
『そそっかしいのは演者だ!』 |
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その時、高座の演者はこう言うつもりだった…… ある男が道を歩いてると、向こうから老年の男がきた。 どっかで、見たことのある人だ…。 向こうもニコニコと笑っている。こっちを知ってるようだ…。 しかし、どういう人だか…。誰だったか…。思い出さない…。 知らんぷりも、できない…。 「どうも、どちらさまで…?」 「ばかッ。お前の親父だ!」 ところが…… 客席の目撃者の証言 まことにポピュラーな小咄で、寄席へ通っていると耳にタコができるほど聞かされ ます。 志ん馬さんもよく演ってるので、末広の入りの薄い客席を前にして、つい、惰性に 走ったのか、肝心のサゲの一言を見事に間違ってしまったんです。 「ばかッ。お前の亭主だ!」 って。 あたしは瞬間、心臓が「ドキン!」と音をたてたのを思えてますよ。 反応ゼロの客席に、志ん馬さんも間違ったことに気づいたんでしょう。あわてて右 手を横に大きく振って、 「違うッ、違うッ」 この一言で、客席だけではなく、楽屋も大爆笑。しばらく鳴り止まずってもんです よ。 志ん馬さんも一緒になって笑ってました。 「向こうから来た人が女だったら、『お前の亭主だ』と言っても筋は通る。間違いに はならない」 と、連れと話したことを今でも昨日のように覚えてますよ。 その志ん馬さんも亡くなりましたね、あたしより若いのに……。 |
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