三遊亭 圓窓
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このエッセイは「ドトールコミュニティ」(隔月誌)に連載中です。
誌は全国のドトール店に、無料サービス誌として置いてあります。
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残念ながら、小冊子は社内の企画変更で廃刊となりました。
ということは、このドトール小咄も消滅いたしました。
これまでのお礼にと思っていたら、風の噂が流れてきました。
「社長は会長となり、小咄の担当者は退社した……」
おお、なんということを……。
あの担当者は何度か落語を聞きにきてくれたっけ。
社長とは一度お会いして、歓談したことがあったけ。
「勝海舟の銅像を建てましょうよ」と熱っぽく語り合った。
それもこれも、思い出として残るのみ……。
しかし、ドトールは街々でますます発展の一途です。
どうぞ、ご愛顧のほどを。
富士コーヒーの小咄は持続中ですので、よろしく。
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No 13 「雪見」
そのお家は高台にありましたから、見晴らしのいいこと。
元旦の今日は、なんと、初雪。
銀世界が一望できるのですから、その見事なこと。
二人は和服を着込んで、日本酒を酌み交わし、雪見酒。
「ばあさんや。こういうとき、お酒は冷やはむかないね」
「そうですね、おじいさん。温かいほうがいいですね」
と、左手の枯れ枝で寒烏が、
「カ〜ン(燗)、カ〜ン」
翌日、二人はお揃いの洋服で、椅子に腰を下ろして、雪見コーヒー、と洒落込んだ
。
「ばあさんや。雪にコーヒーというのも、なかなかいいもんだね」
「そうですね、おじいさん。雪にも香りがあるような感じがしますね」
と、右手の屋根の上で寒烏が、
「カ〜フェー、カ〜フェー」
圓窓ひとりごと「これが最終小咄をなった。富士コーヒーの連載コーヒー
小咄と比べると、あっと言う間でした。(笑)」
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No 12 「四のあと」
昔々……、ではなくて、つい先だってのお話。
ある所に七十代のおじいさんとおばあさんが住んでいました。
この老夫婦は、近所の人から冷やかされるほど仲がよくて、病気もせず、怪我もせ
ず、幸せそうに暮らしていました。
あるとき、おばあさんは居間でコーヒーを飲みながらテレビを見ていました。それ
はいま評判のヨン様のドラマでした。
おじいさんは隣の部屋で一人で詰め碁をやっていました。
「ばあさんや。コーヒーをいれておくれ。おい、ばあさんやッ」
「あとにしてください。今、テレビのドラマを見ているんですから」
「コマーシャルの間にいれておくれよ」
「そうはいきませんよ。ヨン様のドラマなんですから」
「だから、コマーシャルの間でいいって、言ってるだろうが」
「コマーシャルにもヨン様が出てくるかもしれません。見てないと、失礼に
当たりますから」
「やっぱり、ゴ(五・碁)はヨン(四)のあとになるのか……」
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No 11 「間違ってしまった」
ある田舎の駅の近くのお家。
クリスマスの夜。夫婦が食後のコーヒーを飲んでいる。
「子供たちは寝たらしいね」
「『サンタを見るんだ』って、頑張っていたのにねぇ」
「昼間、煙突を掃除して張り切っていたのに」
「子供たちはサンタが本当に来ると思ってんだね」
「あたしは子どもの頃から信じてた。今晩、来るような気がする」
「あんたまで?」
すると、ドアーが開いて入ってきたのが、真っ黒な服、真っ黒な顔、真っ黒な大き
な袋を担いだ男で、ゴホン、ゴホンと咳をしている。
「すいませんが、そのコーヒーを飲ませてくれませんか。ゴホン、ゴホン」
「あなたはなんです?」
「サンタクロースです」
「そんな真っ黒なサンタがあるかッ」
「そうよ、煙突は子どもたちが掃除したはずよ」
「間違って駅の蒸気機関車の煙突に入ってしまって」
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No 10 「苦労す」
クリスマスの横浜の夜道を若いカップルが歩いている。
「里男さん。あたし温かいコーヒーが飲みたくなったわ。近くにドトールないかしら
」
「捜してくる。郷子さんはここにいて」
里男は走りだした。学生時代、陸上部に籍を置いていたので、走ることは苦になら
ない。ましてや、好きな彼女のためなら、使命感さえも湧いてきている。
しばらくして、里男は肩で息をして戻ってきた。
「一様、グルッと回ったんだが見当たらなかった」
「残念、でも、嬉しかったわ。あたしのために……」
二人が歩きかけて、最初の角を曲がると、
「あっ、ドトールっ」
「こんに近くにあったんだわ。灯台下暗しね」
「そうとは知らず、街中を走り回ったよ」
「いいクリスマスだわ」
「どうして」
「あんた苦労す(サンタクロース)」
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No 9 「遅くなって」
ある喫茶店へ入ってきた一人の女。
店内を見渡すと、隅のほうに一人で座っている男を見付けて、そのテーブルに向か
った。
そして、神妙な顔をして詫びながら席に着いた。
「ごめんなさい……、遅くなって……」
「いいんだよ、謝らなくたって」
「待っててくれたのね」
「実は……、今日こそ思い切って、プロポーズをしようと思って……、一時間待った
……。コーヒーも五杯お替りした……」
「あたしも……、家を出るのに一時間遅れたのは……、実は……、そうなの」
「そうなのって……?」
「コーヒーを五杯……、お替りしてしまったのよ」
「あの……、僕のことを……、考えていたの……?」
「ええ……」
「じゃぁ、プロポーズを受けてくれるの?」
「いえ。どう断ろうかと思ってさ」
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No 8 「コーヒーカップはどこ?」
オリンピックの開幕する前に日本を興奮の坩堝におとし入れた、あのサッカー『ア
ジアカップ』の決勝戦のあった日のこと。
日本が中国を破り、優勝を飾った歴史的な一戦。
ある若夫婦が茶の間でそのテレビ中継を見て、終わってコーヒーを飲みながら一息
入れた。
「このコーヒーは?」
「飲んでてかわらない? ブラジル産よ、あなた」
「なるほど……」
「だから、美味しいでしょう?」
「なるほど……。やっぱりコーヒーはブラジルか……」
「サッカーもそうなんでしょう? あなた?」
「うん。日本はアジアではトップにいられるけど……。世界となるとブラジルには適
わないからな、日本は」
「このコーヒーはブラジルなのよ……」
「じゃぁ、このカップは?」
「テレビで見たでしょ。カップは日本よ、あなた」
圓窓ひとりごと「小咄の中にドトールという店の名を出してください、とのことだ
ったが、今回から店の名は記さなくてもいい、ということになった。
それに、小咄を号に二つに、って」
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No 7 「あっ、近所にっ」
過日、NHKTVに出演後、タクシーで帰宅に向かった。
渋谷から板橋方面に山の手通りを真っ直ぐにきて、自宅近くの要町の交差点を左に
曲がったときのことである。
右の車窓に、あのマークが見えたではないか!
「あっ、ドトールっ」
小声の呟きが運転手の耳に入ったのか、一瞬、スピードを落としてくれたので、店
構えもはっきりと見ることができた。
「近所にドトールができた…」
六十年近くもこの辺に住んでいて隣町にドトールがあるなんて、夢のようなもの。
銀座にある店が、町内にあるんだから、たいしたもんだ。
六月の下旬。地下鉄を途中下車して店に入った。
間口は六、七Mだが、奥は右側が膨らんでいるので、ゆったり感はある。
それに突き当たりは中二階形式になっている。
注文しながら訊いてみた。
「この店はいつできたの?」
「七年半になります」
「え! 知らなかった」
「この辺も変わりました。このビルの持ち主も変りましたし、何軒かあった銀行はな
くなるし……。町が変るなんて、あっという間ですよ」
「まったくだ……」
あと、席に着いて、コーヒーとミラノサンドを口に。
町が変るってことは、人が変ることなんだ。人が死んで相続税が発生すれば、事業
に失敗したと同じように、不動産を手離すこともあるだろう。世に引っ越しや夜逃げ
があって当然だ。人が変ってんだ……。
あたしの回りを見ると、客は本を読んだり、イヤホーンで音楽を聴いていたりで、
人の動きがほとんどない。
「コーヒーを飲んでいると、人は変らないのか……」
そう思ったとき、中二階からの話し声が耳に飛び込んだ。
「あいつは、人が変るんだよ。だから俺は好きじゃないんだ」
「人が変るって?」
「ビールを飲みに行ったんだよ。飲んでるうちに人が変ってさ。虎になった
よ」
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No 6 「伊勢原でドトールソング」
四月の末。七沢温泉の湯元玉川館での落語会へ出演のため、小田急線の伊勢原駅で
下車した。16時30分に改札口に迎えがある。
20分ほど早く着いたので、コーヒーでも飲むかと改札を出た。北口、南口と左右
にわかれている。北口へは何度か出たことがあるので、東口はどうなっているのかと、
好奇心から左側へ歩き出した。
あたしはコーヒーが欲しくなると、癖で自然と口走る歌がある。
「♪ドーはドートルのドー♪」
頭が、喉が、胃が、足が、ドトールの店を求めるらしい。あるていど歩いて、ドト
ールの店がないとなると、ちょっぴり残念だが、手近の店に入ることにしている。
ところが、どうだろう、この伊勢原は! 東口に回ろうと左側へ歩き出し、そして
右に折れた、そのとき! 跨線橋の階段を下りることを想定していたあたしの足が、
思わず、そこで止まった!
ドトールの看板が目に飛び込んで来たではないか! 伊勢原にもあったのか!
「♪♪ドーはドートルのドー♪♪」
口ずさむ声もさらに大きく弾んで、心を浮き浮きさせながら店に入った。
店内はこぢんまりしていて、とても可愛いらしい。
あたしはコーヒーに好物のミラノサンドBを添えて注文してから、改めて先着の客
を見渡した。すると、コーヒーだけではなく、レタスドック、ワッフルなどがテーブ
ルに置かれている。
やがて、出来てきたコーヒーとミラノサンドBを載せたトレイを運びながら、また、
口ずさんでしまった。
「♪ドーはドートルのドー♪
♪レーはレタスのレー♪
♪ミーはミラノのミー♪
♪ファーはファッフルのファー♪」
腹に満たした頃、ちょうど、約束の時刻がきたので、席を立って改札口へ。
迎えの人が二人、ジーッと改札口を注目している。その横顔へ「お待ちどうさま」
と挨拶をぶつけたので、びっくりしたようだ。
「早めに着いたので、ドトールで、ちょいと」
「そうですか。線路伝いに歩いてきたかと思いましたよ」
「まさか(笑)」
迎えの車に乗って、会場の玉川館へ。車中、あたしの歌はエンドレスのように続い
た。
「♪ドーはドートルのドー♪」
圓窓ひとりごと「この小咄を読んだドトールのある社員が『ドトールにファッフル
というメニューはありません。ワッフルならありますが』とメールがきた。肝心のド
トール本社に駄洒落が通じなかった……。(笑)」)
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No 5 「三鷹の水族館」
三鷹に用があって出かけた。
JRを下車して、北口へ回った。
駅前は小さなロータリーになっていて、その向こうにドトールがすぐ見えた。そこ
で落ち合うことになっていたので、十分前だが、ストレートに店に入った。
相手は先に来ていた。通りに面した窓際の席に座っていて、こっちに手をあげてく
れた。
注文を受けた落語グッズを渡して、これで用はすみ。あと、雑談をしたり、外を見
たり、隣の客の話し声を聞いたりして、あきることもなく、コーヒーを味わった。
談が途切れると、窓が大きめなので、目はつい外へ向かう。
バスがゆっくりとロータリーを回っている。
「鯨みたいだな……」
幼稚園児たちが色取りどりに包んだ身を一塊にして、黄色い声を上げながら通り去
った。
「熱帯魚みたいだ……」
黒の上下に身を固めた怖そうな顔の男が辺りを見ながら行く。
「鮫だな、まるで……」
しかし、なぜ、こんなことを連想するのだろうか……。その原因がすぐにわかった。
この店の間口は直線ではなく、カーブを描いていて、おまけに窓が大きいから外を
見ると、自分が水族館の中にいて水槽を覗くような感じになるのだ。
そのとき、隣の男二人の深刻そうな声が耳に入った。
「どうも、あたしは世渡りが下手で……。君が羨ましいよ」
「べつにうまいわけじゃないよ。いつも上と下の間に立たされているから、気を遣わ
ないと仕事にならないんだよ」
「それを何年も続けているんだろう。たいしたもんだよ」
「おれも疲れたよ、このところ……。本当のことはほとんど言えないし……」
「と言って、嘘もつきたくはないよなぁ……」
「まったくだ……」
「まったくだ……」
こっちも小さな声で会話を再開した。
「この店は、やっぱり水族館ですね、師匠」
「うん。ここにいると、人間が世間を泳いで渡っていることがよくわかるね」
「まったくですね、師匠……」
「まったくだ……」
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2005・11・21 UP |
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No 4 「明治維新」
久し振りに渋谷へ出てみた。
やぁ―、驚いた。
「喫茶店の多い街だなぁ」とつくづく感心をしながら、目に付いたドトールへ入った。
「あれぇ? こりゃ、大きいぞ、店が……。今まで入ったドトールと違うぞ……」
それもそのはず、隣はドトール本社。本社直々のショップということだ。
耳に学生たちの話が飛び込んでくる。
「明日、歴史の試験。滅入っちゃうよ。年号、人名、地名、事件名の暗記をしなければ
・・・」
「俺は世界史、日本史より大事な歴史があると思ってる」
「なんの歴史?」
「自分史さ」
「なるほど……」
「だから、日記は必ず付けているんだ」
「そんなの試験に出ねぇぞ」
「だから、やる気がしねぇんだよ、俺は」
この会話を聞いていて、「この子はあたしと同じことを考えている」と、嬉しくな
った。
人間一人ひとりに歴史がある。日本史より、世界史より素晴らしいものに作ること
のできる歴史が……。同時に、責任のある歴史でもある。
思うに、学校の先生がこのことを大いに力説してくれれば、歴史はもっと面白く、
楽しく、そして好きになったはずなのに……。
「あの歴史の先生は幕末が好きらしいな。鎌倉、室町をやってても、必ず江戸幕末の
話になるんだから」
「そうそう。『明治維新は教育、実行、整理の三つが巧く繋がって、怒涛の勢いで革
命が成功したんだ』ってよく言ってるもんな」
「だから、『怒涛』って、あだ名になっちゃったんだ」
ここで、あたしはニヤッーと笑ってしまった。
ドトールにも歴史がある。
一九八〇年に日本では初の本格的なセルフコーヒーショップとして出店したドトー
ルは安くて旨いコーヒーを楽しんでもらおうと、その店数を増やしてきた。
その勢いは、学生たちの話していた明治維新にも価する。
そこで、店の名前が「怒涛―る」となったのでは……。
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2005・11・17 UP |
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No 3 「18年ぶりネ」
池袋駅西口の「駅から0分」の所に池袋演芸場という寄席がある。
九月のある日、高座を終えて外へ出て、界隈をぶらついていると、久し振
りの雨がぽつりぽつりとやってきた。
「こいつはいけねぇ」と思った瞬間、目に入ったのが「ドトール」のマーク。
雨宿り方々、本でも読もうと店に入って、静かな三階の一人席へ座った。
本を読んでいると、来るは、来るは。あたしと同じような思いの人たちで、
三階はほぼ満席になった。
と、あたしの右の席から「あらっ?」という声がした。続いて左の席から
「典子?」。
左右の二人は知人だったようで、歳は共に三十前後。あたしは二人を並ば
せてやろうと、席を譲ってやった。
二人はあたしへの礼もそこそこに話を弾ませた。
「急な雨なもんで、あわててドトールに」
「あたしもそう」
「十八年振りね」
「阪神も十八年振りの優勝で」
「ほんと! なにかの縁ね」
二人は幼なじみで、かつ、昔からの阪神ファンでもあることが、あたしに
はすぐにわかった。
「十八年前の優勝のとき、覚えてる?」
「覚えてるわよ。二人で抱き合って泣いたんだもん」
「あのあとすぐだったわ。あたしは引越しをして」
「あたしも転校して」
「それ以来ね」
「十八年……」
「今年、阪神の優勝で、道頓堀へ飛び込みたかったの」
「あたしも。大阪へ行こうとしたのよ」
あたしは、コーヒーを口に、ふと想った。
「川へ飛び込まなくたって、二人はドトールへ飛び込んだじゃないか……」
No 2 「おばあちゃんと一緒」
七月の下旬、両国のシアターXに芝居を観に行った帰り、小腹を空かして
いたあたしの目はJRの近くのドトールに注がれていた。
コーヒーの他に注文したのがミラノサンドB。これはシーフードのハーブ
ソースだから、肉食をしないあたしには最高の腹ごしらえになる。
口に運んでいると、隣の席から近所の人だろう、祖母と孫娘の会話が聞こ
えてきた。
「このトドール、入ったのは初めてだよ。ちょいちょいこの前は通って
いたけどさ。なかなかいい感じだね、このトドールは」
「おばあちゃん、違うわよ。ドトールよ」
「だからトドールでしょう?」
「ドトールよっ」
「トドール……」
「ドトっ」
「トド……」
「違うわよ、おばあちゃん。恥ずかしいわ。ド、ト、ー、ルっ」
「ド、ト、ー、ル……」
「やっと言えたわね、おばあちゃん。忘れないでよ」
「はいはい」
微笑ましいやりとりに、あたしはミラノサンドを手に持ったままで口に入
れるのも忘れていた。
そのうちに二人が席を立った。
店を出ながら、そのやりとりはまだ続いていた。
「年寄りには横文字を覚えるのは難しくてね。しっかり覚えたつもりでも、
すぐに忘れてしまうんだ。ドトのつまり、元へ戻るんだよ」
「それはトドのつまりだよ、おばあちゃん」
あたしはミラノサンドはまだ手に持ったままで、それを聞いた……。
No 1 「姑と嫁とコーヒーと」
五月の上旬のある夕暮れ。
浅草演芸ホールへ楽屋入りする前にドトールへ立ち寄った。浅草公会堂の
脇を貫くオレンジ通りと新仲見世が交差する近くにある。
壁沿いに並ぶ椅子の一つに腰を降ろすと、 隣のテーブルから老練なる主
婦二人の声。
「嫁が来て以来二年、二人で日本茶を飲んでは午後のひと時を楽しんで
いるの」
「いいじゃないの」
「あるとき、茶箪笥の整理をしてたら、コーヒーの豆が出てきたじゃな
いの」
「お嫁さんが…?」
「そうらしいの。で、嫁に『コーヒーも飲んだっていいのよ』って言っ
たら、『お母さんも一緒に飲んでくだされば』って言うもんで、今では
日本茶をやめて、二人でコーヒー党になったの」
いい話じゃないですか、嫁の悪口を連発する者の多い時代に。
そこで、あたしはふとその先を想い描いた。
仮に、あたしがそのお宅へ伺ったとする。
コーヒーの雰囲気が迎えてくれるであろう。部屋のテーブルの中央に、挽
かれたコーヒーがおいてある。
「日本茶は今、どうしています?」
と声をかけると、部屋の隅で日本茶が、
「お茶をひいてますよ」
待てよ。
「お茶をひく」って言葉の意味、まだ通じるかな……?
また、ふと、想った。
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2003・12・31 UP |