窓の余所道窓門旬報追っ駆け場所トップページ

 窓の余所道

吉窓の筆 窓里の筆 萬窓の筆 窓輝の筆


窓輝の筆

ただ今 稽古中 6

『 錦 の 袈 裟 (にしきのけさ) 』
文 窓輝
 古今亭円菊師匠に教えていただいたこの噺は自分の大好きな滑稽噺で、師匠もよく
高座で演られます。
 前座のときは恐れ多くとても稽古のお願いができず、二ツ目になり円菊一門の先輩
に相談したところ「まぁ大丈夫じゃない?」という訳で、おそるおそるお願いしたら、
あっさりOK。
 お忙しい中じっくり時間をかけて教えていただきました。
「昔の吉原は知らないでしょう? 今のは詳しそうだけど」と師匠。
 そんなに詳しくはありません。聞くところによると、師匠の前座から二ツ目の頃ま
で廓はあり、勉強のために何度か仕方なく通ったそうです。
 若いお客さんも当然知らないのですから、「〜という所があったそうで・・・」と
わかりやすい廓の説明から噺に入ります。
「今の風俗の事をしゃべってもいいよ。あなた詳しいんだから。あまり生々しいのは
いけないよ」と師匠。ですから、詳しくありませんよ、師匠・・・。
 噺のポイントは与太郎がお寺で袈裟を借りる場面で、和尚さんは「袈裟を返してく
れないとしくじるから、必ず返してくれ。困るから必ず返して。袈裟がないと・・・
」と、くどく念押しします。これはオチをわかりやすくするために必要な事だからく
どく言いなさいと、師匠。
 師匠の時代と違って勉強のため通うことが出来ないのが残念なところです。
 円菊師匠、ありがとうございました。
2001・11・17 UP





ただ今 稽古中 5

『 弥 次 郎 (やじろう) 』
文 窓輝
 別名[嘘つき弥次郎]。
 入船亭扇橋師匠に教えていただきました。
 扇橋師匠が私と同じ橋本姓だからというのではなく、以前から尊敬する師匠でした
ので、稽古をお願いしたかったのですが、なにしろ天下の落語協会理事。恐れ多くて
前座の時はお願いできませんでした。
 師匠に出番の2時間前に浅草演芸ホールに来ていただいて、三階の空いている楽屋
で稽古。開口一番に扇橋師匠、「昼間はやっぱり暑いね」。申し訳ありません。
 さて、この[弥次郎]ですが、圓生師匠直伝だそうです。圓生師匠は、この落語は
長かったので何度かに分けて教えてくださったそうなんですが、「あの当時より少し
短いから、今日は1回で」と、扇橋師匠。弥次郎のウソを何ヶ所か削ったり、言い回
しを変えた結果、短くなったようです。
「自分で考えたギャグを入れるのはいいが、突拍子のないものや下ネタは駄目。若い
ときは真面目に演ってるのが一番だ」と扇橋師匠に言われました。肝に銘じます。
 弥次郎のスケールの大きな嘘に、ご隠居さんの突っ込みという流れの落語ですが、
後半部には芝居のパロディがあるので、それの勉強も必要になってくる。
 約1時間の稽古の後に、お礼のマドレーヌをお渡ししたところ、扇橋師匠は大変お
喜びの様子でした。甘党ですから、師匠は。

2000・9・14 UP





 ただ今 稽古中 4

『 壷 算 (つぼざん) 』
文 窓輝

 買い物上手の留さんが友達に頼まれて、一緒に壷を買いに行きます。二荷の壷が欲
しいところを、留さんは三円五十銭の一荷の壷を三円に値切って買い、店を出る。
 町内を一回りして店に戻り、今度は二荷の壷を買うから、一荷の壷を下に取ってく
れと頼みます。ここで一荷が三円なら二荷は六円でいいだろうと、また値切ります。
「さっき払った三円と、下に取る壷が三円だから六円になるだろう」
 と言って二荷の壷を担いで店を出る。
 どうも腑に落ちない主人は呼び戻して、算盤を入れる。計算は合うがどうも可変し
い。繰り返すうちに、主人は混乱してしまう……。
 自分が混乱しないよう整理します。
 最初に払った三円は店の物で、壷は留さんの物。三円で下に取ってもらうならば、
もう三円たして六円の壷と交換しなければなりません。
 留さんは、とにかく強気に演じます。悪人ではありませんが、やや乱暴な口調で主
人に迫ります。
 主人は、最初の丁寧な対応が徐々に焦りだし、やけくそになります。ここのところ
は大げさに演じます。
 春風亭一朝師匠から教えていただきました。
2000・6・15 UP





 ただ今 稽古中 3

『 花 色 木 綿 (はないろもめん) 』
文 窓輝
 まぬけな泥棒の噺で、寄席でよく演じられる[出来心]の後半部にあたります。桂
文平師匠から教えていただきました。
 親分に手口を教わった新米の泥棒が空き巣に入るが、貧乏な家で何も盗む物がない。
しかたなく干してあった褌を懐に丸め込んで逃げようとしたところに、主人の八五郎
が帰ってきた。
 慌てて縁の下に隠れるが、泥棒に入られたことに気付いた八五郎は、家賃の言い訳
にしようと、お金や羽織、刀など、無かった物まで盗まれたことにしてしまいます。
 大家を呼んで話をしますが、嘘だとは思わない大家は真剣に話を聞いて、盗まれた
物を紙に書き出します。
 八五郎は、布団を盗まれて裏が花色木綿だというと、着物や蚊帳、お札まで裏が花
色木綿だとデタラメを言います。
 この場面は、八五郎と大家のボケとツッコミになるのでテンポよく、嘘に怒った泥
棒が縁の下から出てきてケンカになる場面は、三人の位置関係に気を付けて演じます。
2000・6・15 UP





 ただ今 稽古中 2

『天災(てんさい)』
文 窓輝

 今回は長いネタに挑戦です。
 この噺は大勢の師匠が演じます。
 あたしは春風亭一朝師匠に教えていただきました。
 横町のご隠居の家に、短気で喧嘩好きの八っつぁんがやって来て、「離縁状を二本
書いてくれ」と言う。「女房と母親にやる」と言うので、あきれたご隠居は、紅羅坊
名丸という心学の先生を紹介してやります。
「何事も天災だと思ってあきらめれば、腹は立たない」と教えられた八っつぁんは、
しきりに感心して家へ帰ります。留守中に、友達の所で喧嘩があったという事を知る
と、早速教わった話をしてやろうと乗り込みますが、しっかりと覚えていなかったた
めに、話がメチャクチャになってしまいます。
 内容はよくあるパターンですが、とにかく長い噺です。30分はあるでしょう。し
かし、これ以上に長い落語など、いくらでもあるので、ねを上げる訳にはいきません。
 主人公の八っつぁんは喧嘩好きの江戸っ子ですが、わかりやすく説明してやると、
ちゃんと理解できる人間です。また、紅羅坊先生は、温厚で年配のえらい学者です。
 この二人の会話がポイントになるので、性格を良く把握して、八っつぁんの時には
やや乱暴に。先生の時には、八っつぁんを諭すように、二人の人物を演じます。
 尚、心学というのは、江戸時代にできた学問で、思想や道徳の事だそうです。
2000・4・2 UP





 

ただ今 稽古中 1

              『幇間腹(たいこばら)』
文 窓輝

 男芸者とも呼ばれる幇間持ち(たいこもち)の噺は、春風亭一朝師匠に稽古を付け
ていただきました。
 この噺、まず最初に若旦那が登場します。この人はお金と時間があるので、いろん
な物を食べたり、いろんな遊びをしたりしてきたので、退屈しきっています。なにか
新しい、変わった遊びはないかと、考えているうちに鍼を打つことを思いついたので
す。初めは畳や枕に打っていたが、飽きてしまい、幇間持ちの一八に「打たせてほし
い」と頼みます。
 はなは断わっていた一八も、「祝儀を出す」と言われて、承知をする。一八を寝か
せて腹に鍼を打つが、痛がって動いたために鍼が折れてしまいます。あわてて迎え鍼
を打つが、これも折れてしまい、若旦那は困って逃げ出してしまうという内容です。
 考えようによっては怖くて陰惨な噺なので、無茶なことを言う若旦那に抵抗をしつ
つも鍼を打たせてしまった一八を明るく演じるのがポイントだと教わりました。
 登場人物も若旦那と一八、それに行き付けの店の女将さんの三人だけで、鍼を打つ
仕草もリアルにしなくてもよいので、比較的簡単な噺だと、一朝師匠はおっしゃいま
したが、あたしはいわゆるヨシショというものが苦手なので、一八を演じるのは楽で
はありません。
 なぜ性に合わない噺に手を出したのかというと、師匠の演じるこの噺が非常に面白かったので、演ってみたくなってしまったのです。性分ではないとはいえ、ヨイショはこの世界には必要なことですから、苦手のままにしておくわけにもいきません。
 ただ今、ヨイショも猛稽古中です。

      [幇間腹]の梗概は、圓窓五百噺付録袋/圓窓五百噺ダイジェスト/幇間腹
1999・12・25 UP