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芝居三昧

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人形浄瑠璃

 文雀の琵琶にも思わず拍手

2000年2月11日 国立小劇場
「人形浄瑠璃」2月公演 鑑賞
書き手 ただしろう
 圓窓師匠へ。
 ご招待券、ありがとうございました。女房と久し振りに浄瑠璃の観賞が出来ました。


 源平布引滝 四段目。この出し物は歌舞伎で先ごろ三段目を見たところなので、続
きは如何相成るや、という興味もあって楽しみにして劇場入りしました。
 結局は、三段目とは異なる枝道の話で、三段目の実盛にまつわるところは全くなく、
ただ、源氏の再興を願う源氏にとっての忠臣が、その目的に身を砕くことだけが前段
を通じての幹になっているだけと分かるのですが、この段では多田蔵人行綱が主人公
となっています。
 行綱が、鳥羽の離宮に幽閉されている源氏方の後白河法皇を救出しようと、音羽山
の清水寺あたりに来かかると、松波検校という琵琶法師が盗賊に襲われ瀕死の体。相
手の賊を仕留めて、検校に様子を聞くと、検校はもと源氏の武士で、平重盛の命で、
法皇を慰めるべく招かれた途次と話すので、行綱も身分を明かし、検校に身を窶して
屋敷へ赴きたいと告げると、検校は喜んで絶命する。
 ここまでが音羽山の段。向うに清水寺らしい建物が見える薄暗い背景で、不気味さ
と、緊迫感が漂います。行綱は文雀が使う。


 次の段は松波琵琶の段。離宮を訪れた行綱には小桜という年端の行かぬ娘があって、
これをここへ奉公として潜入させている。
 平家方にも仕丁として潜入している武士がいる。この一人が小桜を行綱の子と感づ
いている。法皇を慰めて退出して来た検校(行綱)の前で、小桜に父の名を言えと、
紅葉の木に吊るして折檻する。検校が、子供だからと許すようにいうと、それなら、
代わって詮議をするか、琵琶を弾いてみろと難題を持ちかける。琵琶に乱れが現れて
はと、躊躇する行綱、さりとて娘を詮議することはとてもできない。
 ここのところ、見せ場ではありますが、黙して苦悩する行綱を文雀はよく表してい
たように思います。そして、圧巻はそのあと、ついに琵琶を取り出して弾くところで、
三味線の鶴沢清二郎さが、三味線に駒を仕込んで琵琶の音を出すのです。その直前、
糸が切れたみたいで、直していたように見えましたが、あの糸も仕掛けのうちだった
かも知れません。そして、その琵琶に合わせて、文雀の行綱が弾く琵琶が、殆ど、実
際に弾く音に合って、その方も感動して思わず拍手していました。
 と、いう迫力ある見せ場に魅せられましたが、良いことばかりでなく、ここに至る
まで屋敷の仕丁三人が寒さに堪えかね、庭の紅葉の枝を落として焚火をして騒ぐくだ
りは特に本筋と関係無く、だらだらと長くて(この段全体が70分くらいのところ3
0分以上にも思えた)眠気を催しました。
 つまらない出し物だと、極めつけようと思ったら、前述のくだりになり、一転よい
緊張感に包まれ、終わって、終わって今日はいい人形浄瑠璃を見たと満足感を覚えま
した。作上、だれ場を作ったのか、自然とそういう演出をしたのかわかりませんが、
それにしても振り返ると、あの紅葉焚きの場面は要らないなと思いました。これは、
一緒に見た、女房も同感でした。


 幕切れは、紅葉山の段といって、10分くらいの幕。太夫衆が5人と三味線一人。
舞台には、行綱を真中に、重盛(玉男が使う。玉男はここだけ)はじめ平家の面々が
勢揃い。重盛が行綱に、この場は立ち退き、後日、軍勢を整えたとき、改めて立ち会
おう、という言葉で幕になる。
 ということで、終幕はよく歌舞伎で見る幕切れでした。


 落語的といえば、丁度、私がいらないといった部分がそうなるかも知れません。
 庭掃除をする仕丁が、寒いと言って、紅葉の枝を折って焚き火をするくだりで、は
じめは、とんでもないことと、棒縛りにでも遭いそうな具合で小さくなりますが、局
の一人が、「いや、林間に酒を温め紅葉を焚く」という漢詩の意に叶ったとして、御
酒下されに変わって、酒盛りになります。そして、その三人が、怒り上戸、泣き上戸、
笑い上戸という性格で、笑いの一幕を演じます。


 それから小桜責めにつながるのですが、三人の上戸のくだりが、本編とかかわりな
いため、私にとってはだれた、ということなのです。
 ただ、あとの悲劇(小桜責め)との対比でだれ場、(作者としてはだれとしてわざ
わざ作ったわけではないでしょうが)を置いて一息入れたという意図だったとは思い
ますが、少々長いのに閉口したということです。
2000・3・15 UP







日本人と外国人が並んで 人形浄瑠璃の観賞

2000年2月12日 国立小劇場
        「人形浄瑠璃」2月公演 鑑賞
書き手 愛称 楽女(がくじょ)

 文楽人形『源平布引滝(四段)』
 文楽は、初めて見るという外国人のトーピアス君に、20年前に〔菅原伝授手習鑑
〕しか見たことない私。
 昨日、文楽の種類には、大きく分けて、時代物と世話物があるのだ」と、Eメール
で伝えたところ、すぐに、本屋へ行って調べたらしく、会うなり、「紀伊国屋で文楽
に関する本を見つけて、ちょっと読んだけど、面白いね!」ときた。
 ムムムッ、おぬし、やるなっ・・・。
 私と同様に、本屋で調べてきたらしい・・・。
 世話物の方が、色恋沙汰で説明できるので、易しいかな、と思った。しかし、我々
が見るのは、時代物。
 昨日のEメールで、
「源平とは、12世紀にあった二つの勢力で、源氏は武士で、平氏は貴族。
 時代物のテーマとしては、闘い、英雄、武士の美徳、等。
 世話物のテーマは、恋愛もの、等。
 有名な作家に近松門左衛門」
 と、説明。
 だいたいの説明も荒すぎるけど、私のできる英語力は、いかに単純に伝えるか、し
かできないので、こんなところ。
 武士を何と訳すのか、辞書を引いたら、『サムライ』だった。ホントかなあ・・・
・?
 今日、見てみても、やっぱり、この美徳というか、武士道というか、これこそザッ
ツ・ジャパニーズなのよね。
 結局、国立劇場は便利なことに、イヤホン・ガイドがある。英語と日本語版。外国
人はこれを借りた。私も借りた。
 終わってから、トーピアス君が、興奮してしゃべり始めた。
「文楽は初めてみた。スゴイ! 素晴しい。一つの人形を三人で操っている! 見事
だ!
 それに加えて語り(太夫)と三味線。五人で、操っているんだね。どうやって合わ
せているのかな」
 と、立て続けに話した。
 そして、
「文楽の本を読んだら、人形を動かす一つのパートは、それぞれ10年かかると書い
てあったヨ」
 と、言う。
 20年前に、「脚だけで、4〜5年」と聞いたような気がして、それを私が言うと、
「いや、昨日読んだ本には、10年と書いてあった!」 
 と言われてしまった。
 20年前の掠れた記憶は一瞬にして、消去されてしまった。
 それから、「文楽のストーリーの書き方に五段で一つになっているのがあって、今、
見たのは、そのうちの四段目なのだ」と説明したが、うまく説明できなかったので、
よくわからない顔をされてしまった。
 本に「そうゆうふうな形式になった」と書かれて、さして疑問に思わず、「そうな
んだ」と納得してしまうのに対して、「何で?」と聞かれると、本当に困る。
 終わってから、
「今日の文楽は、難しかったんじゃない? 武士の美徳とか、あるから・・・」
 と言ったら、
「そういうところ(武士の美徳とか)、凄く好きだから、ワカリマス」
 と言われてしまった。
 確かに、私もイヤホンガイドを付けてなかったら、わからないことだらけだったか
も。理解度は、外国人とそう変わらないかもしれない・・・・。問題だ。
 私自身が、今回、感心したのは、太夫の声色の多様性。
 ちょっと前にはやったピングー(粘土のアニメ)や、私が以前チョロッとやったも
んぴー(粘土のアニメ)は、全部のキャラクターの声を一人の声でやっているけど、
比べものにもならないな。
 三人が酔っ払って、それぞれが、泣き上戸、笑い上戸、怒り上戸になって、それを
一人で語り分けるなんて部分は、お見事でした。
                              
2000・2・21 UP