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芝居三昧

「オフイス樹」便り 歌舞伎・上から会 一般演劇 古典芸能


2003★オフイス樹 アトリエフェステバル 第4弾

文学シリーズ・芥川竜之介
「よむ ・ はなす ・ かたる」
会場 地下鉄丸の内線・中野坂上駅徒歩8分 オフイス樹アトリエ
 T/F 5337・8368



2003年11月22日(土)14:00 18:30
        23日(日)14:00 18:30
        24日(月)14:00




前売り 2800円 / 当日 3000円
チケット・問合わせ オフイス樹 T/F 5337・8368




構成/演出・阿部寿美子 音楽・国松鈴代 舞台監督・依知川芳司
 照明・さつき会 衣装・RIRA 協力・中山悦子/原武彦
 制作・佐藤利 企画製作・平樹典子






阿部寿美子・仲木隆司・市川兵衛・坂浦洋子・佐藤史枝

 芥川龍之介 原作 藪の中 他




太宰と芥川

三遊亭圓窓 記


 この十月に、”アトリエフェステバル・第3弾”をやらせていただいて、まだその
疲れが体のどこかに残っているような感じがあるのに、もう第4弾。
 これに出演するわけではないのだが、どうも気になって仕方がない。
 というのは、出演する阿部寿美子さんと市川兵衛さんとは、九月に準無言劇”押絵
と旅する男”で共演させていただき、すっかりお世話になってしまった、ということ
があるからで、お礼方々、稽古も拝聴しようと思っている。


 で、この芥川だが、あたしが第3弾で取り上げた太宰治はこの芥川に憧れというよ
り尊敬してやまなかったのであろう、とあたしは推測している。だから、芥川の活動
と似ている部分もあり、古典物から素材を得て作品をなすのもその一つのようだ。
 また、芥川が俳句をやっていると知ると、太宰もそれを始めたりするところは可愛
らしさもあるが、その質は芥川には遠く及ばない。
 第4弾には、芥川の作品をいくつか読み返して、聞きに出かけようと思っている。
 あたし自身の勉強にもあるからだ。


 みなさんも、どうぞ。
2003・11・12 UP








 「太宰治を終えて」

" 文学シリーズ 太宰治 "
『 噺 語り 朗読 』を 終 え て
圓窓 記


 なんとか終えて、しばらくほっとした日々を過していた十月の末、千恵さんから恒
例のハガキをいただいた。
 カルチャーに触れて感動すると、必ずその感想を記したハガキを送ってくださるの
で、高座から「客席に知恵さんがいるな」と確認すると、ハガキが連想されるほど、
あたしは演り甲斐を実感する。
 千恵さんは窓門会の会員だけでなく、俳句の四九八句会の会員でもある。
 とりあえず、そのハガキを要点をここに載せさせていただく。


 ハガキ「太宰治−忘れもしません。この方は女子高生の頃の私をタブラかした悪い
    お人なのでした」



     ハガキの出だしが、これです。「タブラかした」の文字に、ドキッとする
    ではありませんか。


 ハガキ「ところが、この3つとも原作は知らず、公演の後、元女子高生のあたしは
    あわてて、本をを紐解いたのでありました」


    まさに、笑涯楽習に馳せ参じるお一人。


 ハガキ「『赤い太鼓』は儀部さんの三線を得て、堀越富三郎さんのコミカルな浪曲
    風の朗読で楽しめました」



     紛失したお金の捜索ということで、『貧の意地』と似たストーリーでしょ
    う。


 ハガキ「圓窓師匠の噺の『貧の意地』は長屋の人情噺。まさにぴったり! 原田や
    そこへやってくる七人の身なりや風貌が、師匠の噺の中で蘇ったのです」



    噺としては登場人物が多過ぎるのですが、原作に随いました。


 ハガキ「浪人らの意地の張り合いに、原田の妻が助言するという演出は、もう西鶴
    のものでもなく、太宰のものでもなく、圓窓師匠の『貧の意地』です。七人
    の出て行った後の余韻も感じられました」



     まさにそれです! 
     妻はお金のないときのやり繰りをしたのだから、増えたときの工夫もやら
    せたら、妻の賢明さと苦労が表現できるのではないかと考えましたので、あ
    の演出です。
     原作を読んでくださったので、その違いがわかるのです。演者として、と
    ても嬉しいです。


 ハガキ「語り『貨幣』は、赤い襦袢姿の色っぽい百円紙幣の玉木文子さん。玉木さ
    んもどうやら太宰氏にタブラかされたお一人のよう」



     玉木さんはこの形式の語りは初めてだとか。また、なにかに挑戦をしたい
    と、頑張ってました。


 ハガキ「異国語において貨幣は女性名詞。ならば太宰氏の女性観は金銭観と通じる
    のか? 興味深いところです」



     そんな研究をしてみてはどうですか?
                          
2003・11・11 UP








 2003★オフイス樹 アトリエフェステバル 第3弾

文学シリーズ・太宰治

「噺 ・ 語り ・ 朗読」



会場 地下鉄丸の内線・中野坂上駅徒歩8分 オフイス樹アトリエ
 T/F 5337・8368


2003年10月17日(金)       18:30
         18日(土)14:00 18:30
    19日(日)14:00



前売り 2800円 / 当日 3000円
チケット・問合わせ オフイス樹 T/F 5337・8368



 朗読 赤い太鼓 堀越富三郎

   語り 貨幣 玉木文子

   噺 貧の意地 三遊亭圓窓

三味線 サンシン 儀部恵子



太宰とお金

三遊亭圓窓 記

 あたしがこの企画を制作の平樹さんへ持ち込んだもので、「企画・構成・監修 三
遊亭圓窓」になってしまって、照れている真っ最中。
 照れながらも、人の縁の喜びをどっさりと浴びている。
 語り「貨幣」の演出をする西方さんは、先年、あたしが棒手振りでちょいと出演し
た藤沢周平物の芝居「ちゃんと呼べ」のブカン(舞台監督)をやっていてた人。今回
はこの企画のブカンもやってくれるという。そして、語りの玉木さんも長屋のかみさ
んとしてその同じ舞台に立っていたのだ。
 朗読の堀越さんは、あたしがオフイス樹に出入りをさせてもらったときには、すで
にオフイス樹の幹部的な存在で、いつかあたしの企画に出演してもらおうと、狙って
いた人物。この度は、念願叶ったということになる。
 サンシンの儀部さんの愛嬌ある丸顔は、オフイス樹の忘年会や新年会で見るばかり
で、一緒に仕事はしたことなかったが、やっと、演奏と圓窓がつながることになった。


 さて、取り上げた太宰治だが、あたしは勉強が嫌いでこの道に入ったくらいだから、
文学書を手にしたのは噺家になってからである。森鴎外、芥川竜之介、山本周五郎、
そして太宰治と、全集には目を通したのだが、ほとんど忘れてしまっている。それら
本すらも処分してしまったから、執着すらもない。
 今年に入って、ある朗読の会へ出かけて、聞いたのが太宰の作品で、坂本史さんの
語った「貧の意地」。やぁ、面白いのなんのって、笑った、笑った。暗いイメージの
太宰を見事に蹴破ったような衝撃を覚えた。
 翌日、サイトの青空文庫からその作品をダウンロードして読んだ。なんと、原作は
西鶴の「諸国はなし」との解説。
 太宰、自作の「新釈諸国噺」にはよほどの自信があったのであろう、前書きで曰く
「古典の現代訳なんて、およそ、意味の無いものである。作家の為(な)すべき業(
わざ)ではない」と。言うだけではなく、その筆も見事に力を発揮している。同時に、
太宰は原作者を褒めることを忘れていないのがいい。「西鶴は、世界で一ばん偉い作
家である。メリメ、モオパッサンの諸秀才も遠く及ばぬ。私のこのような仕事に依(
よ)って、西鶴のその偉さが、さらに深く皆に信用されるようになったら、私のまず
しい仕事も無意義ではないと思われる」と。
 その西鶴作品、若い頃に読んだことがあって、「これを落語にしたいなぁ」とふと
考えた記憶がある。あわてて、西鶴の「諸国はなし、巻一の三、大晦日(おほつごも
り)はあはぬ算用」を読み返した。ついでに、原作を芝居にしたという真山青果の戯
曲「小判十一両」も読んでみた。細かくて堅くて、青果らしさはあるが、面白味は「
貧の意地」に軍配を上げたい。


 出演の三人がそれぞれに選んだこの三作品「貧の意地」「貨幣」「赤い太鼓」、偶
然にも金銭が絡んでいる。
 それもなにかの縁だろう、と変更もせず、それぞれが稽古に入ったようだ。

2003・10・02 UP








2003★オフイス樹 アトリエフェステバル 第1弾

Min−Wa

会場 中野坂上 オフイス樹アトリエ T/F 5337・8368



2003年4月18日(金)
19日(土)
20日(日)
      19:00
14:00 19:00
15:00



前売り 2000円 / 当日 2300円





第1部


 お国自慢民話パレード


       北海道 そば食い地蔵    青坂章子
       宮 城 ブヨの一時     和田明子
       埼 玉 里芋ころころ    佐藤史枝
       長 野 おば捨て山     新明麻里
       静 岡 だいたらぼっち   外海多伽子
       福 岡 六三郎さんの田植  原ひとみ


第2部


 さねとうあきら作品集


         なたねおりひめ 新明麻里 他全員
             鬼 笛 青坂章
             雪 花 外海多伽子 和田明子 佐藤史枝
             女 鬼 原ひとみ 和田明子 佐藤史枝
                  詩・青坂章子




ス タ ッ フ


構成・演出 
舞台装置 
衣装 
照明 
制作スタッフ 
協力 
企画制作 
美術 
 岡田和子
 市川兵衛
 佐藤利
 いつき会
 中山悦子
 西田幸雄
 平樹典子
 横井紅炎
2003・4・16 UP








 オフィス樹 稽古場風景

オフイス樹
T/F 5337・8368
2003年3月
文責 圓窓
石の会『父と子』 ただ今 稽古中 

 チラシを手にして、びっくりした。
 原作者は「水上勉」ではないか!
 読むと「原作者の水上勉が追い求め続けている、差別と人間の生死に対する思いの
集大成! 映画になった『父と子』が舞台によみがえる」とある。
 こりゃぁ、見たくなる。
 原作者の水上氏が戦後、現在、あたしの住む豊島区千早町の近くの高松町に居を構
えていたことを知ったのはあたしの前座の頃。それから氏の推理小説を夢中になって
読み漁ったことがある。
 今、稽古中の原作を読んだかどうか、忘れてしまっている。映画も見た記憶はない。
 遅ればせながら、本と映画を捜すとするか。いや、待て。無垢のままこの公演に臨
もうか。観客として大いに悩むところ。

 さらに、驚くことに音楽が「平岩佐和子」。
 なにを隠そう。『ヨーガス長屋』という良い外国映画を観賞するために結成された
会の仲間なのだ。
 彼女の音楽なら間違いない。あたしが、保証する。
 先年、彼女宅で忘年会があったとき、あたしが「オーソレミヨ」を歌うことに相成
り、彼女が伴奏してくれた。
 あたしは熱唱した。
 ところが、歌い終わった直後にせっかく飲み食いした物を吐き出した人がいて、大
騒ぎになってしまった。
 原因は?
 あたしは今でも歌のせいではないと堅く信じている。
 伴奏したのは「平岩佐和子」である。





第4回 企画公演『父と子』
3月26日(水)〜30日(日)下北沢「劇」小劇場





チ ケ ッ ト
前売り:3500円 当日:3800円 学生:2000円 親子券:5000円





お 問 合 わ せ
石の会 T 047−343−0588





キ ャ ス ト
野村須磨子 徳山富夫 渋谷明生 古川慎





ス タ ッ フ
演出:入谷俊一  美術:内山勉  照明:手嶋栄一  音響:射場重明
おおお!!!
 舞台監督が「市川兵衛」。彼は頼り甲斐のある男なり。

2003・3・14 UP








 謹 賀 新 年      平成十五年 元旦  

 旧年中は一方ならぬご支援を頂きまして、誠にありがとうございました。
 おかげさまでオフイス樹も今年で12年目を迎えます。
 更に活動の場を広げながら、みなさまに喜ばれる芝居作り取り組む所存でございま
す。
 なにとぞご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。
                                 オフイス樹



次回の公演案内

オフイス樹 アトリエ公演


               会場 アトリエ樹

『民話語り部の会』 構成・演出 岡田和子(俳協)

'03年4月18日(金)〜年1月20日(日)




『夜の来訪者』 翻案 内村直也 / 演出 岩村久雄(文学座)

'03年6月17日(火)〜22日(日)





大 特 報

'04年6月 札幌公演決定

「ハルピン帰りのヤスケ 〜戦場に踊る男〜」

2003・2・5 UP







「オフィス樹」創立10周年記念公演
家族シリーズ 第11弾


[ ハ ル ピ ン 帰 り の ヤ ス ケ ]

戦争で生き残ったヤスケに
何ができるのであろうか!


家のこと 家族のこと
ああもしたい こうもしたい


でも 残したのは
”ドジョウすくい”だけだったのか!
いや 違う
もっともっと すごいことを残していた

スタッフ
企画制作・平樹典子
  作・花季実子 演出・岩村久雄
  音響・松本昭 照明・岡本謙治
舞台監督・西方亨 舞台美術・岩村久雄
音楽監督・中越仁美
作詞・泉保誠作曲・村木康生
 衣装・佐藤利 安来節指導・岩岑佳声
  宣伝美術・クニトシロウ
写真・石川妙子 手話通訳・小早川幸枝

キャスト
堀越富三郎・山本道子・井ノ口勲・松井功
利重智秋・菊地和彦・秦ゆかり・西田幸男 園部まりあ



前売券:3500円  当日券:3800円 学割2000円
会場 東京芸術劇場小ホール2(TEL 5301・2111)



PM2:00 PM7:00
26(水) ――――
27(木) ――――
28(金)
29(土)
30(日)


主催 オフィス樹
〒164・0011 中野区中央2・21・6 第2山田ビル2F
T/F 5337・8368





[ ハ ル ピ ン 帰 り の ヤ ス ケ ] の 残 し た も の
 オフィス樹の稽古場にて 圓窓 記


『存在感のある家族』
三遊亭圓窓


 還暦の直前に日舞を習い始め、まだまだ照れもあるのだが、人さまの踊りも観賞し
て回るようになり、日本の芸能の素晴らしさもいくらかわかるようになってきた。
 そんな矢先、安来節の踊りをこよなく愛した男の物語が芝居になると聞いて、楽し
みに待っていた。
 それに、五〇〜六〇代の落語家の中には〔安来節〕に対して格別の郷愁を持ってい
る者もいて、あたしもその一人なのである。
 太平洋戦争前に、安来節のブームがあり、多くの寄席が安来節を中心とした興行を
打った時期があったそうだが、あたしは昭和40年前後の浅草の木馬館で安来節に接
している。その木馬館が唯一、安来節の見聞できる所であった。
 そこは常に安来節がトリで二回興行。前を講釈、浪曲、漫才、音曲、手品という各
種の寄席芸が並んでおり、サラ(開口一番)は二つ目になったばかりの落語家が出演
をしていた。
「サラはどうもねぇ」と嫌がる者もいたが、あたしは好んで出演させてもらった。と
いうのは、興行主から「落語の受持ち時間は、構いませんから好きなだけ演ってくだ
さい」という注文が魅力だったからである。
 推測するに「早い時間は客席も薄いから、落語家にたっぷりと演らせて、客の頭数
が揃った頃、我々の出番がくるようにしよう」という楽屋の暗黙があったようだ。
 あたしはそんなことには一向に頓着せず、喜んでサラの高座に上がって、師匠(六
代目圓生)には内緒で[淀五郎]とか[掛取り]とかの大ネタを四〇分、五〇分と長
演した。
 貰うギャラは一日五百円そこそこだったが、演るところのなかった若手にはもって
こいの高座であった。
 そこで見聞した安来節は、唄、鳴物、踊りと総勢五人前後はいたと思う。それはそ
れは賑やかで面白かったことを覚えている。
 この度、〔ハルピン帰りのヤスケ〕で、父親役の富越さんが〔どじょう掬い〕を披
露するというので、稽古を覗かせてもらった。
「昔からやってたんじゃないかい?」と思わせるほどの巧みさ。びっくりした。
 この〔オフイス樹〕、創業以来の制作テーマは〔家族〕。今回も、父親の安来節と
母親の惣菜屋という異質のニ本の筋がどうしようもなさそうに流れて、そこへ個性豊
かな子供たちが正直に絡み合っていく。
 生きるか死ぬかの時代をくぐってきた父母と、安泰に浸かっている子供たちとがぶ
つかって当然だろう。
 明るく、楽しく、悲しく、切なく、この家族も存在感は大きい。
2001・9・24 UP









劇団・風力写真機 第3回公演

『 雨 に 映 っ た 空 か ら 』

作・演出 ふたくちつよし

CAST
青木勇二 青沼神対馬 伊尾智隆吉 渡辺修
蓮池龍三 高橋裕太 寺田有紀美 鶴水まひる 金子智美



2000年6月22日(木)〜25日(日)
武蔵野芸能劇場  デンワ:0422−55−3500
JR中央線三鷹駅北口から徒歩1分



チケット(全席指定)
前売り:3500円 当日:3700円

22(木) 23(金) 24(土) 25(日)
―――― 14:00 14:00 13:00
19:00 19:00 19:00  ――――


人間 誰だって さびしいもの
公園は それを抱え込む なにかがある


スタッフ
美術・野村真紀 照明・山口明子 音響・近藤達史 音楽・八幡茂
舞台監督・原田修司 宣伝美術・藤野級井 協力・桑山正道 協賛・TAMOTSU
制作・二口真規子 制作協力・平樹典子




『噺家心をくすぐる劇作家・ふたくちつよしさん』

文 三遊亭 圓窓

 落語の創作の参考にと、意識して異業種の芸能を観賞しはじめて十年近くになる。
 歌舞伎、能狂言、現代演劇、一人芝居などなど、飽きることを感じないほど勉強の
傍ら楽しませてもらっている。
 三年前、ある人から「ふたくちさんの芝居を観なさいよ」と言われ、武蔵野劇場へ
足を運んび、〔山茶花さいた〕を観たのがきっかけで、それ以来、ふたくち芝居の追
っ掛けを自負することにした。
 ふたくち作品には心に沁み込んでくる台詞が必ずある。それがあたしには忘れ難く、
捨て難く付きまとい、思い出すたびに涙することになり、ついつい「高座で言ってみ
たいな」という野心が湧いてくるのを抑え切れなくなってしまう。
 その〔山茶花さいた〕を落語に脚色して高座にかけるのに、さして月日は要さなか
った。
 芝居でも映画でもそうだが、日本人の口や文章で「愛」という言葉は盛んに使われ
ている。だが、それは日本特有の義理人情に毛の生えたようなものであって、真の「
人間愛」とは言い切れないように思えてならない。
 しかし、ふたくち作品にはその「人間愛」がある。だからこそ、舞台に感動を与え
るいい台詞が生まれるのであろう。今回の芝居『雨に映った空から』も、たぶん、あ
たしに落語の脚色を促すに違いない。
 こうして、この原稿を打っているだけで、もう感涙でキーボードを濡らしてしまっ
た。
 ふたくちつよしは噺家心をくすぐる男である。
 
 創作落語〔山茶花さいた〕は圓窓のホームページ圓窓落語大百科事典
http://www.dab.hi-ho.ne.jp/ensou/znshu/sazanka.htm
にUPされてますので、是非とも読んでいただきたい。
2000・6・7 UP




オフィス樹プロデュース公演No9
家族シリーズ 第9弾



スタッフ
作・原武彦 演出・内田透
音響・松本昭 照明・岡本謙治
 舞台監督・西方亨 舞台美術・原ひとみ
 写真・石川妙子 衣装・佐藤利

キャスト
 堀勝之祐 溝口貴子 山本与志恵
 森富士夫 根岸清子 菊地和彦 利重智秋


前売券:3500円  当日券:3800円
会場 大塚 萬スタジオ(TEL 5394・6901)


平成12年5月
PM2:00 PM6:00 PM7:00
25(木) ―――― ――――
26(金) ―――― ――――
27(土) ――――
28(日) ――――


主催 オフィス樹
〒164・0011 中野区中央2・21・6 第2山田ビル2F
T/F 5337・8368





[ 秋 雷 ] は 観 る べ し !

オフィス樹の稽古場にて 圓窓 記


 芸事に数多く接していると、「聞かなければよかった」という落語があるように、
「観なければよかった」という芝居もあることが、最近、やっとわかった。
 また逆に、「え! これ再演物? いいなァ。もう一度、観たいな」と言えるよう
な良質の芝居に接すると、「初演を観ておきたかった」とまで、切歯扼腕することも
あり、高額の金をはたいて、書籍の初版本を買い漁る人の気持ちもわかるような気が
する。
 よく耳にする会話だが、「初演が同時に絶演(あたしの造語)をも意味する作品が
多くて」という打撃的な評。あまのじゃくのあたしは「ならば、見逃してはならない
作品の一つなり……」などと、冗談を言いながら観に出掛けてしまうことも、しばし
ば。


 「ならば、この〔秋雷〕はどうなんだ?」と、訊かれそうなので、書いておこう。
 この芝居は、門外漢のあたしがこの初演の後、再演の約束をしてもいいくらいの作
品。つまり、そう口走ったあたしに恥をかかせることなく再演を続けるであろうほど
の力作なのだ。
 作者の原さんにとっては、始めての本格的な芝居の書き下ろし。
 台本の初稿を読ませてもらったとき、「これ、小津安二郎の世界みたい・・・」と
つぶやいてしまった。最近、小津作品はヨーロッパの映画界で評価が高まっているそ
うだが、原さんの初稿もヨーロッパ風の香りがしないでもなかった。
 後日、最終稿も読ませてもらって、何度も改訂を重ねたのであろう、それがありあ
りと伝わってきたのには、びっくりした。小津の味に黒澤明の明るさが加わったのか、
アメリカ映画のような娯楽性も伺えて、近頃、外国映画も見歩いているあたしにとっ
てはとても嬉しかった。


 男が歳を重ねて、老いを感じたときの、人に言えぬショック。
 あたしなぞは、笑いながらそれを人にパーパー喋って、ショックをやわらげるよう
にしてきたが、聞く人も去って、一人になったとき、やはり、寂しさを感じることも
ある。
 この〔秋雷〕では、「老い」と「性」と「愛」を考え合わせたときの葛藤がとても
素直にきれいに描かれている。
 この手の芝居にありがちなのが、見終わったときの不快さ。ところが、この〔秋雷〕
の稽古を何度か見せてもらったが、後味の悪さがひと欠けらもない。
 ということは、いい芝居であることのなによりの証左である。

 とりあえず、初演を観るべし。
 そして、再演も追っ駆けるべし。

2000・4・27 UP





 「オフィス樹」特別企画 札幌ライブ『民話から落語へ』No.2

見 聞 読 その1


文 無銭
と き:99/11/13(土)19時開演
場 所:札幌市中央区狸小路3丁目
  メッセホールキクヤ
番 組:立ち枕 三遊亭圓窓
    民話朗読 家出した犬  かたり舞
      落語 小さな菜の花 三遊亭圓窓
    民話朗読 そうめん地蔵 かたり舞
      落語 そうめん地蔵 三遊亭圓窓
        中入り
      落語 田能久    三遊亭圓窓
   

立ち枕 圓窓
  圓窓師匠の立ち姿の挨拶から始まる。
  そして、師匠が命名した〔立ち枕〕の由来を説明する。
 「落語に枕はつきもの」から、やがてある落語家が眠っていた客をつまみ出した話へと
  進む。誰のことかは、私(無銭)は言いません。落語好きの中で一番口が固いと言わ
  れている、私です。「立川談志のことだ」なんて決してここに書きません。(笑)

民話朗読 [家出した犬] 舞
  札幌を意識して、アイヌ民話を題材とした民話を朗読。
  粗筋を書こう。

  昔、アイヌの老夫婦にたいそう利口な子犬が飼われていた。
  狩りの手伝いをするなど働き者の子犬は、老夫婦に子供のように可愛がられていた。
  しかし、他の大きい犬の嫉妬から策略に追われて、老夫婦の家を出ることとなる。
  子犬は若者に拾われ、若者の手助けをしながら一緒に暮らす。
  実はこの犬はアイヌの熊神の娘であり、最初は老夫婦の子供としてつかわされもので
 あったが、老夫婦のもとを離れて若者のもとで暮らしていた。
  やがてアイヌの神が現れ、子犬を人間の娘にかえた。
  人間の娘になった子犬は若者と結婚したが、最初に育ててくれた老夫婦の恩を忘れず、
 老夫婦を訪ねる。
  老夫婦にも優しく迎えられた娘は半年は老夫婦と、そして半年は若者と暮らしました。

  無銭の一言
 犬が人間になるのですか、アイヌ版[元犬]ではありません。
 他の犬のイジメにあい、家出はしますが、育てられた恩を忘
れなかったという話です。
 蛇足ですが、元参議院議員でアイヌ民族としてアイヌ文化の
継承に努めているの萱野茂さんの著書に「妻は借り物」という、
ちょっとショッキングな題の本があります。
「アイヌ民族では妻はけっして自分の所有物ではない。借りた
物であるから、大切に大切に扱うのだ」という内容です。
 題名から一瞬、逆の内容を想像しそうですが、「返品自由」
ではなく、いつ取り上げられても文句は言えない。だから取り
上げられないように、妻は大事に大事にしなければいけないそ
うです。

落語 [小さな菜の花] 圓窓
  急遽演目を変更して、翌日の函館での会に用意してあった高田屋嘉兵衛の物語にまつ
 わる創作噺をお披露目。
  そういう訳でプログラムには題名が載っていませんでした。、おまけに打ち上げの時
 に圓窓師匠にお聞きするのをコロッと忘れてしまいました。
  というわけで、とりあえず圓窓師匠がメーリングリストに書いてましたわらび座の歌
 舞劇[菜の花の沖]の観賞感想の文章から題名を推察させて頂きました。
  正式題名は圓窓師匠からの正式発表をお待ちします。
  札幌は記念すべき初演になるのでしょうか?
  粗筋を書こう。

  最初は、北海道そして函館と高田屋嘉兵衛の話、司馬遼太郎の作品の中身に触れ、高
 田屋嘉兵衛の人物像について話を進める。特に嘉兵衛が「人はみな同じ」であるという
 考えを貫き、アイヌ人とも分け隔てなく付き合ったという話を披露した。
  その一つのエピソードとして、ロシア人捕虜ゴローニンとの友情に触れ、高田屋嘉兵
 衛との捕虜交換の話。
  そしてロシアの船が函館の港を出るときに、ロシアの乗組員が嘉兵衛に「ウラァ タ
 イショウ(大将)!」と叫び、嘉兵衛も船に向かって「ウラァ、ディアナ(船の名前)」
 と互いに叫ぶ場面へとなる。
  yahooで「ウラァ」を検索した話も出ました。
  このまま地噺で進むのかと思いきや、互いに「ウラァ」「ウラァ」と高座で叫ぶ声が
 だんだんと小さくなり、故郷淡路島で老後を送っている高田屋嘉兵衛本人の夢の中であ
 ったと、場面が転換し、いつか噺の世界へと入っていった。

  夢にうなされていた自分を起こした女房のお房に、ゴローニンを載せたロシア船を見
 送っていた夢の中身を語り、昔の思い出を語る高田屋嘉兵衛。
  そこに遊びに来た二人の子供、ともに嘉兵衛が名付け親となったいる。女の子がナナ
(菜々?)、男の子がナキチ(菜吉?)。「ナナは菜の花の菜、ナキチは菜っぱの菜から
 名付けた」というくすぐりがある。
  二人の子供にも昔の思い出を語って聞かせる嘉兵衛。ロシア船の乗組員と互いに「ウ
 ラァ」「ウラァ」と叫びあった、そのことを耳を傾けて聞き入る子供。二人の胸にも嘉
 兵衛の優しい心が、「人みな同じ」の心がしみこんでいく。
  やがて嘉兵衛が臨終を迎えたときに「ウラァ、ウラァと言ってくれ」と周りの者に言
 うが、声が小さくて、誰にも通じなかった。
  大人達の後ろから見ていて嘉兵衛の死を知った菜々と菜吉は外に飛び出し、菜の花が
 いっぱいに咲き乱れる丘の上に登る。
  菜の花が一面に咲き乱れる、その向こうに広がる青い海と白い波。
 菜の花のその沖に向かって、二人は叫ぶ「ウラァ」「ウラァ」。

無銭の一言
 題は「小さな菜の花」で宜しいでしょうか?
 札幌は初演でしょうか? 初演としたら函館の方には申し訳
ない気がします。
 北海道で高田屋嘉兵衛といったら知らない人はいません。確
かにどのような業績をあげた人かは知らなくとも名前だけはみ
んな知っています。知らない人が居たら住民税を倍にします。
 最初、ご当地だけに高田屋嘉兵衛の話から始まり、司馬遼太
郎の[菜の花の沖]の話へとつなぎ、「ウラァ」「ウラァ」と
来て、そのまま地噺で行くのかなとおもった矢先、見事な技あ
りの場面転換で、淡路島での高田屋嘉兵衛そのものへとなりま
した。
 まさに「ウラァ技」でした。



無銭の番外発言
 会場の入り口に〔飲食物禁止〕の貼り紙。ここまではよくある光
景ですが、その下にある貼り紙にはなんと〔ジャンプ禁止〕!!!
 何故こんな貼り紙があるか、おわかりになりますか?
 実はこの会場は〔キクヤ〕という札幌では名の通ったレコード楽
器店のビルの5階にあるのです。普段は若者が大勢集まるライブハ
ウスなのです。若者が音楽に合わせてついついジャンプをすると床
が抜ける恐れがあるので、「ジャンプ禁止」の貼り紙があります。
 この貼り紙が効き目があるかどうかは、オジさん(無銭)は一度
も確かめたことはありません。
 というわけで、会場の壁はむき出しのコンクリート、高座には黒
のカーテン、そして高座の左右には馬鹿でかいスピーカーが鎮座ま
しましています。
 ご想像下さい。
 レポートオジさんも疲れました。 
 ナナさん、棒茄子さんの、援軍出動を期待しています。
 



 オフィス樹札幌ライブ「民話から落語へ」No.2

見 聞 読 その2

文 棒茄子

 皆様、こんにちは。
 昨晩の冷え込みで都心から車で二十分ほどの藻岩山も雪化粧いたしました。
 会の行われた夜は雪の予報も出ていたのですが、普段の行いが良いものが一名いたお陰
で、雪が舞うようなことはありませんでした。
 棒茄子と申します。続きを書かせていただきます。

民話朗読 [そうめん地蔵] かたり舞
  栃木県地方の民話。
  あら筋は師匠の落語が忠実に追っていますので、そちらをご覧下さい。
  朗読中は極力集中しようと、天井を見たり目を閉じたりしていたのですが…、 私の
 耳が朗読に馴染んでいないせいか、はたまた、舞さんの美貌に気が引かれたのか、登場
 人物のイメージがなかなか湧きませんでした。
  落語に慣れ親しんだ耳には、やはり落語形式の方が落ちついて聞くことが出来るよう
 です。
  かたり舞さん、なかなかの美形であります。話題に上っていた通り、あたしの好みで
 言うと、昨年よりグーでありました。こうなると、一段と来年が楽しみになって参りま
 した。
  師匠、人選にお迷いでしたら、是非ご一報下さいませ。

落語 [そうめん地蔵] 三遊亭圓窓
    とある信心深いお殿様、毎月の旦那寺参りと年に一度の栃木のニ荒山神社参拝は
   欠かせておりません。
    ところが、どうしても所要で神社への参拝に行けなくなったお殿様は、お寺の住
   職に代参を依頼します。
    檀家のお殿様の頼みです。住職は快く引き受けました。旅立ちの日までの毎日、
   住職は本尊である地蔵菩薩に旅の安全を「念には念を入れて」祈願したのです。
    国を出て数日後、とある峠で住職は追い剥ぎに出会いました。お殿様から頂いた
   路銀ばかりか身ぐるみをはがされた住職、筵をまとい、おなかをペコペコにしなが
   らも、やっとのことで神社に辿り着きました。
    この神社の禰宜たち、自分達は毎日ご馳走を戴いているのですが、下の者達には
   粗末な食事しか与えていませんでした。その為、別当たちの間では不満が溢れてい
   ました。
    そこに現れた住職「なんでも構わない、戴いたものは残らず食べるから」と食べ
   物を乞います。別当たちは、日頃の憂さを晴らそう、このジジイをいじめてやろう
   と、鉢に入れたそうめんを勧めます。

 住職「これはこれは有り難い、いただきます………、あ〜おいしかった」
 別当「ささ、お替わりを…」
 住職「いや、充分にいただきました……、そうですか? では遠慮なく」
 別当「鉢が空きましたな。お替わりを…」
 住職「いや、もうこれ以上は…」
 別当「なんと! 最前、残らず食べると申したではないか!」
    住職が困惑していると、そこに一人の品のいい老人が現れ、
 老人「いかがなされた? そうですか… では、私が替わりにいただこう」
 別当「年寄りが…? すぐ根を上げるに決まってる。そら、どんどん食え」
 老人「ん〜、これは美味い。お替わりを…」
 別当「ふん、いくらでもあるんだ。ほら、お替わりだ」
 老人「いや〜、美味い美味い。お替わりを…」
 別当「ほら、お替わりだ、残さず食えよ!」
 老人「どうした、出てくるのが遅くなったぞ。お替わりはまだか?」
    出すそばから(そうめんなのに。注 筆者の洒落)ぺろっと平らげる老人に、別
   当たちは顔色を失います。
    そこに一人の村人が駆け込んで来て、
 村人「大変だァ! お社の脇の谷が、そうめんで埋まってるぞォ!」
    別当たちが慌てて覗いてみると、谷からそうめんが溢れんばかりに…。これはこ
   れは、どうした訳か…。
    別当たちが老人の背後に回ってみて驚きました。老人の背から、谷に向かってそ
   うめんが流れ出てるではありませんか! そして老人の体からは後光が…
 別当「いったい、いったい、あなた様はどなたで…」
 老人「わしか? わしはこの者が住職を務める寺の本尊、地蔵菩薩じゃ」
 別当「へへ〜〜」
 老人「ひどい悪さをするものじゃ。何故に次から次とそうめんを差し出すのじゃ?」
 別当「はい、麺には麺を入れまして…」

      棒茄子の一言
         とてもいい噺だと思います。が、正直に言って「落ち」の部分は改良
        の余地があるのでは…。なにか、思いついたら提案させていただきます。
       (ホンマかいな…)
       「念には念を入れて」を住職の口癖にして、繰り返し登場させるという
        のはいかがでしょうか?
         旅立ちの準備をする際「念には念を入れて」。
         身ぐるみはがされて筵をまとう際「念には念を入れて」荒縄で縛る。
         そうめんを食べる際に「念には念を入れて」、付け汁を余分に手元…。
         住職の口癖が移った別当、谷を見に行く際、同僚に「念には念を入れ
        て」見に行く…。
         その都度、笑いが取れれば印象が深くなり「落ち」につながり易いか
        と思います。

         私は落語の所作にはあまりこだわらない方なのですが、そうめんを食
        べるシーンには思わず肯いてしまいました。
         麺を食べる落語といいますと[時そば][うどんや][そば清]」な
        んかがありますが、師匠は、口をすぼめることにより、うどんやそばよ
        りも細いことを強調されていました。な〜るほどなァ。
         長文、失礼しました。ここまで、3時間かかった…
        [田能久]に関しては、お手元の落語本を…。

2000・1・9 UP




 「オフィス樹」特別企画 函館ライブ『民話から落語へ』No.1

と き:99/11/14(日)19時開演
 場 所:函館公民館

後日のEメールによる座談会

<圓窓口演の[高田屋嘉兵衛]について>

参加者 ML〔浮世床〕同人
圓窓「それにしても、ナナちゃんの函館レポートは遅いな」
ナナ「イカン! すっかり忘却の彼方へ消えていました。北海道へ行った事さえも曖昧な
  記憶になってしまったのに…。大丈夫か? 私…」
圓窓「札幌のラーメンのことしか念頭になかったから、無理もないがね」
ナナ「大筋は、無銭さんとただしろう先生のレポートと、同じということで…」
圓窓「それじゃァ、レポートにならないよ」
ナナ「落ちは、『フワァー』でした」
圓窓「それしか覚えてないのかい。なにしに遥々と来たんだ、函館へ」
ナナ「覚えてますよ、ちゃんと。会場の公民館は、すばらしかった。レトロでモダンなカ
  チョイイ建物だった」
圓窓「ちょいと、待て。会場よりも、噺だよ」
ナナ「会場から入らないと、噺も聞けませんでしょ」
圓窓「そりゃそうだが……」
ナナ「あれは、建築好きにはたまらない逸品。会場内はもちろん、建具や階段ひとつを見
  ても、スキがない。隙間じゃなくて、スキがない。昭和八年の建築のままの公民館が
  会場だったのですか、本当にすばらしい所です。特に春の桜の頃は一段とあでやかで
  す」
圓窓「長いね、能書が…。そろそろ、噺のほうに……」
ナナ「ハイ。私の正直な感想として、この噺は北海道のお客さんだから分かる噺だと、思
  いました」
圓窓「当然そういうことになるでしょうね」
ナナ「恥ずかしながら、「菜の花の沖」を読んだ事のない、私にとっては……」
圓窓「本当に恥ずかしいと思っているのかい?(笑)」
ナナ「いずれ読みますから、ご勘弁を、代官さま」
あきら「あのさ、ナナちゃんだけにコッソリ白状するけど、僕、北海道出身なのに嘉兵衛
  さん知らなかったの」
ナナ「嬉しい!」
あきら「そんでさ。親とか親戚(妹達は解るわけが無い)に聞いたらみんな知ってたさ」
ナナ「実は、私もいままで名前しか知らなくてさぁ。でも、周りの親とか親戚とかは知っ
  てんの」
あきら「僕のカミさんも知らなかったし、クラスメートも知らなかったから、きっとその
  辺で教科書が変ったんだと思う。それか、僕の友達みんな、小学校5年の時の社会科
  の時間に寝てたか。それか、僕の周りはバカばっかり集まっているか。類はなんたら
  で」
ナナ「バイト先の社員さんが知っていて、休憩中に嘉兵衛さんについて熱く語られて、困
  ってんの、あたし」
あきら「小学校の社会科は、4年で〔札幌〕をやって、5年で〔北海道〕を勉強する。ち
  なみに、北海道の歴史教育ってのは、ほとんど明治以降がメインなので、旧石器時代
  〜江戸時代は2時間ぐらいで終わってしまう。嘉兵衛さんを知るのは無理だ」
ナナ「こんなあたしでしょう。以前、某噺家さんにちょっと怒られたりして、どうリアク
  ションとっていいか分からない時がありました」
圓窓「おいおい。某圓窓という噺家のことだろう」
ナナ「読んでたんですか」
圓窓「当然でしょう、MLのEメールだもの。で、あたしの噺はどうなの?」
ナナ「嘉兵衛さんが何をしてきた人なのか、少し分かり難かったです。全国的に無名に近
  い嘉兵衛さんを分かり易く説明しないと、私以上に予備知識のないお客さんにはツラ
  イかも知れません」
圓窓「なるほど……」
ナナ「『ウラァー』の深い意味は伝わらないし、それを落ちに持って行くのも難しいよう
  な気がしました。外伝は本編の認知度が高くないと、ムツカシイですよね。早いとこ
  ろNHKで放送してほしいものです。それを見て私も勉強しないと…」
圓窓「一気に書きましたね。一気書きというやつだ」
ナナ「ホントは今でも、嘉兵衛さんの存在は遥か向こうです。北海道の皆さんには内緒で
  すよ。某噺家さんにも」
圓窓「そうか…。あたしも20歳ぐらいの頃、60、70歳のお年寄りが遠い存在に見え
  てね。今、自分がその歳になっちまって、戸惑っているんだが……。歴史上の人物な
  んて、遠い存在だと思ってたんだ。
   ところが、あたしは今ではナナちゃんを見てて勝手に興奮をしてたの」
ナナ「あたし、女としてそんなに魅力があるのかしら」
圓窓「そうじゃなくて、20歳の娘のナナちゃんが高田屋嘉兵衛の末裔だってことでさ」
ナナ「あたしは興奮はしたことないの」
圓窓「あたしはするんだよ。正直言って、嘉兵衛を知ったのは今年(平成11年)の一月」
あきら「知りたてのホヤホヤね」
圓窓「あきらさんだって、人のこと言えないよ」
あきら「わかってます」
圓窓「歴史上のすごい人と血のつながりのある人が目の前にいるとなると、あたしの血だ
  って黙ってはいませんよ。激流しますよ」
あきら「それ、バイアグラの飲み過ぎじゃありませんか」
圓窓「あきらさんは駄目ってなさいッ」
あきら「わかってます」
圓窓「歳を重ねてきて、葬式、法事を何回も経験すると、先祖から伝わってきている血を
  考えるようになるんですよ。若いうちはほとんど考えないでしょうね。
 『ホントは今でも、嘉兵衛さんの存在は遥か向こうです』と言うナナちゃんの気持ちも
  わかるんですが、なんか、こう、もったいなくてね。
   そんなところから、無理を承知で嘉兵衛を落語化しようと作業を始めたんですよ。
   あたしの作業なんですが、と言いながら、こんなことを書かせてもらいます。

   演劇に評伝芝居というのがあるそうで。
   歴史上の人物を主人公にして、その人の業績やら人間性を追及する芝居。
   これの大事なことは、主人公の業績、人間性を現すことも大事ですが、舞台に芝居
  としての良さが表現されているか、どうかも、大事だと聞いたことがあります。
   古典落語にも評伝的な作品もあります。
   本来、落語は歴史には載らなかった人間の、ある日、ある時、あることを表現した
  もので、歴史上の人物はほとんど扱わないのですが、例外として、いくつかはありま
  す。
   甚五郎物もその一つでしょう。
   講談から落語になったものですから、誰が演っても『甚五郎という大工の名人がい
  まして』ということを言ってから始まります。
   つまり、『この主人公はこうこうこういう人で』という評伝的な落語なんです。
   あたしはこの甚五郎物を稽古したとき、あえて、甚五郎の名を伏せて演じ始めまし
  た。
   終末の辺りで、他の登場人物に『甚五郎さんですね』と言わせるようにしたのです。
   この試行はなんとか成功したように思い、自画自賛してます。
   甚五郎の名前を振り回さなくても、落語としてしっかり組み立てられていれば、名
  前はどうでもよくなるのです。
   で、話は嘉兵衛に戻りますが、
   今、創作落語[嘉兵衛]は、名前を前面に出して、業績をわかってもらおうと、四
  苦八苦している段階のようです。
   聞いた人が『嘉兵衛にしなくても、いい噺じゃないか』と言ってくれるようになれ
  ば、しめたもんなのです。
   そのためには、多くの人の感想、意見、知恵が必要なんでしょうね、きっと。

  で、ナナちゃん、頼むよ、この先も」(笑)
2000・1・9 UP






『オフィス樹』(演劇制作事務所)便り
オフィス樹第八回公演 
           家族シリーズ第七弾 
                  中川新三追悼公演平成11年九月公演
      平成10年度 池袋演劇祭優秀賞受賞 「蟻たちへの伝言」

 再度 推薦します 三遊亭圓窓

 初演の折り、チラシにこんな推薦文を書かせてもらった。

  今回の芝居は「遺産相続」の諸問題に真っ向からぶつかり、随所に芝居の面白さを出す手法がとられ、観客をワクワク、ゾクゾクさせてやまない。
  台本の格調の高さ、演出の発想の豊かさ、役者の巧さが絡み合った厚みのある舞台が展開される。 この芝居を見逃したら、話題に事欠くことになるかもしれない。 
  見逃すまいぞ。

 私の目に狂いはなかった。池袋演劇祭で優秀賞を受けたのである。その直後、演出をした中川氏の急死はまさに劇的であった。
 記念と追悼を合わせての再演。
 再び、見逃すまいぞ。
 公演日時 九月11日〜12日
 PM2:00     〇   〇
 PM5:00     /   〇
 PM7:00     〇   /
会場 東京芸術劇場翔ホール2(池袋西口)03-5391-2111

 前売券 3000円 当日券 3300円
 学割(高校以下)券 2000円(オフィス樹でのみ扱い)

 チケットの注文は
   チケットぴあ T 03−5237−9988
   としまコニュニティチケットセンター
          T 03−3590−5321(土休日を除く)
   オフィス樹  TF03−5337・8368

 主催 オフィス樹
    〒164・0011 中野区中央2・21・6 第2山田ビル2F
                      TF 5337・8368
『樹友会』に入りませんか 
    『オフィス樹』は「家族」をテーマにした演劇作りをしております。
    その応援をしてください。年会費は1000円です。
    『オフィス樹』関連の演劇芸能情報をお届けします。


[ 蟻 た ち へ の 伝 言 ] の 稽 古 を 拝 見
オフィス樹の稽古場にて 圓窓 記
                 
 八月末日。
 まだ、通し稽古には入っていなかったが、狭い稽古場は熱気と緊張が漲って
いた。その中を諭すように流れる演出家の声を聞いて、ドギッとした。
 ある役者にこう言っていた。
「相手の人の台詞を聞いている間にも、感情の変化はあるはず。その線上に自
分の台詞があるのだから、相手の台詞の語尾部分だけを受けて、いとも簡単に
台詞を言ってはいけない」
 これは、噺家としても考えさせられる。
 噺家の芸では、複数の登場人物を同時に表現はできない。観客は隠居さんと
熊さんの会話も、同時に見ることはできない、ということになる。
 噺家はどちらか一人を交互でしか演じられない、という宿命を抱えた芸とも
いえる。隠居さんが、喋っているところか、熊さんの話を肯きながら聴いてい
るところ。あるいは、熊さんが、喋っているところか、隠居さんの話を聴いて
いるところ。
 隠居にしても、熊公にしても、話している場面が大部分だから、演者である
噺家は話し手側(隠居か熊公)の感情は計算に入れても、聞き手側(熊公か隠居)
の感情まではなかなか計算しきれない。
 そこで、噺家は話し手側の語尾を受けてからの聞き手側の感情表現になりが
ちになってしまう。
 芝居の演出家は、これを「いけない」と、注意する。
 噺家の演出って、生ぬるいな、、、、。
 落語の稽古、演出しなおしてみよう。
                         
1999・8・吉日 UP