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俳句三昧

四九八句会 だくだく連句 句集諸々 御蔵山一日一句


 圓朝まつり『模擬句会』句集

圓朝忌・全生庵
02・8・11
 炎暑の中、ご足労くださいまして、ありがとう存じました。
 また、初めての試みの模擬句会に参加いただきまして、暑く・・・、いや、熱
 く・・・、いやいや、厚くお礼を申し上げます。
 ここに、ささやかな小冊子ができましたので、お送りいたします。
 次回も、よろしくお願いいたす次第でございます。

模擬店主 三遊亭 圓窓





選びし句
 《扇橋選》


    小道具の扇子に感謝お焚上げ      玲子


      噺家にとって扇子と手拭いは、一年中なくてはならぬ商売道具。
      本当に心から感謝です。


    ゆつくりと下駄の音して圓朝忌     なか子


      まったく無駄の無い、圓朝忌ならではの素晴らしい名句です。
      本当に結構ですね〜。


    名人の呼吸を盗む圓朝忌        一九


      句界では仲間の句を採ってはいけないのですが、あの猛暑の中で働きな
      がら、「芸は盗むものだ」という師匠の言葉を思い出しました。


    もうひとつ茄子の馬など増やしけり   富士見


      艶々とした紫深いナスの馬、割り箸の脚。
      新しい仏が増えて悲しみが胸に染み入ってきます。


 《小三治選》


    青二才と言はれし兄の盆支度      旅子


      青二才がいい。どんなお兄さんだったのか。
      詠んでる人、その兄弟、家族。深い句です。


    夏柳全生庵へつづく坂         玲子


      涼しげのはずの柳を夏柳としたことで、当日の暑さが見事によみがえっ
      てきます。


    どことなくとぼけておりし幽霊画    州代


      どことなくとぼけて笑みを誘われます。


    暑い日に圓朝よろこぶ人の波      典幸


      あまりにも見たさまの素直な句です。
      が、「暑い日に」を「炎天に」にすると百倍よくなります。


 《圓窓選》


    開かれて屋台賑わう圓朝忌       晴坊


      まさか朝一番に来て門の開くのを待っていたわけではないでしょう。
      寺には持って来いの「開かれて」は嬉しい語。問答も真似たくなる。


    圓朝忌日に翳したる秋扇        富美子


      噺家の扇子は戸外で使われることはほとんどない。
      この忌では境内でのお焚き上げ、日に翳す、扇ぐなどで目に付く。
      年に一度の戸外での主人公に。


    幽霊の待たれる昼の圓朝忌       富士見


      幽霊と言えば黙っていても夜。
      それを真昼に扱うので「やられた」と感心。
     「待たるる」のほうが圓朝、幽霊にふさわしいように思うが……。


    言の葉も炎天繁る圓朝忌        千恵


      三遊亭圓朝無舌居士の戒名に「言の葉」を持っていくとは憎い。
      境内には集まった現代の噺家たちの言の葉も繁っていた。
      炎天の暑さも熱さの感。





投句揃い


 ++ 嘱目句 ++


    暑い日に圓朝よろこぶ人の波     典幸
    圓朝忌幟はためく団子坂       玲子
    夏柳全生庵へつづく坂        玲子
    小道具の扇子に感謝お焚上げ     玲子
    圓朝の牡丹灯籠盆の寺        玲子
    落語家の集ふ供養の夏の寺      玲子
    圓朝忌功績たたえ全生庵       玲子
    イベントの若き落語家汗まみれ    玲子
    名人の呼吸を盗む圓朝忌       一九
    どことなくとぼけておりし幽霊画   州代
    開かれて屋台賑わう圓朝忌      晴坊
    圓朝忌日に翳したる秋扇       富美子
    みんみんに囃され俄か模擬店主    富美子
    圓朝のまつり闌(たけなわ)寺涼し  富美子
    幽霊の待たれる昼の圓朝忌      富士見
    金魚すくひ袂びしょぬ濡れ釣果なく  富士見
    ゆつくりと今日も一日蜻蛉飛ぶ    木圭
    蝉の声聴かず扇の炎かな       柏水
    言の葉も炎天繁る圓朝忌       千恵
    噺家に負けまいとして蝉しぐれ    順子
    新涼や全生庵に寄席太鼓       順子
    ゆつくりと下駄の音して圓朝忌    なか子


 ++ 当季雑詠句 ++


    朝がおをクク句と笑って朝かおう   恭士
    秋刀魚焼くダイコン甘くおろす妻   一九
    もうひとつ茄子の馬など増やしけり  富士見
    涼風や富士の麓の八畳間       康太
    青二才と言はれし兄の盆支度     旅子
    早暁のひぐらし聴くや眠れぬ夜    博




噺家苦吟


    志ん朝も小さんも逝きて圓朝忌    小三治


    坂あがる馴染み圓朝祭かな      扇好


    破れ扇炎燃え立つ圓朝忌       吉窓


    にぎはひも供養とならむ圓朝忌    扇辰


    首筋を拭ふ手せはし圓朝忌      扇治


    つよき陽にまみれ警備の圓朝忌    窓輝


    舌耕と無舌とを知る圓朝忌      扇遊


    語りつぐ心つたへむ圓朝忌      扇橋


    圓朝忌勘九郎より花ありて      圓窓





扇橋・圓窓の炎天下塾


  志ん朝も小さんも逝きて圓朝忌    小三治


   扇橋「こりゃすごいよ。人名を並べるってぇのは危険なんだよ」
   圓窓「羅列で終わっちゃうこともあるから」
   扇橋「自分の名を入れて四つだから、欲張っているよ」
   圓窓「でも法要にピッタリの句だね」
   扇橋「”逝きて”じゃなくて、"逝きし"のほうがいい感じかな」
   圓窓「直す?」
   扇橋「直さない。小三治はすぐ怒るから」


  坂あがる馴染み圓朝祭かな      扇好


   圓窓「元句は”圓朝祭馴染み顔”」
   扇橋「そりゃ、知っている顔ばかりだろうが、"馴染み顔"はいただけないね」
   圓窓「で、どうします?」
   扇橋「”馴染み圓朝祭かな”」
   圓窓「”顔”を取ったね。それに句跨り」
   扇橋「いいんだよ、扇好は跨るのが好きだから」
   圓窓「扇橋さんが好きなんだろうよ」


  破れ扇炎燃え立つ圓朝忌       吉窓


   圓窓「元句は”破れ扇子”でした」
   扇橋「噺家だから扇子なんだろうが、扇でいいでしょう」
   圓窓「”炎に消ゆる”となってましたよ」
   扇橋「”消ゆる”ってぇのが引っかかるね。手妻じゃないんだから、消えなく
     てもいいよ。”炎燃え立つ”にしました」


  にぎはひも供養とならむ圓朝忌    扇辰


   圓窓「元句は”供養となりて”だった」
   扇橋「圓朝という大師匠に対して、”なりて”は言葉がきつい。で、”ならむ
     ”としました」
   圓窓「なるほど。いずれ、扇橋さんの法事のときには”ならむ”を使わせても
     らうよ」
   扇橋「よせよ」


  首筋を拭ふ手せはし圓朝忌      扇治


   扇橋「旧仮名にしたよ」
   圓窓「旧仮名は読みにくいって人もいるけど……」
   扇橋「”手せはし”なんて、一遍ではわからないかもしれないね」
   圓窓「何度か読んでみて、わかると味が感じられる」


  つよき陽にまみれ警備の圓朝忌    窓輝


   扇橋「”警備”を詠み込んだ句はなかなかないよ。元句が”警備した日焼と熱
     意来年も”だったね」
   圓窓「窓輝は警備係りだった。後日にファックスでその句がきたんだ。これじ
     ゃ、標語だから、『いい句というものは、多くの人がいつでも、どこでで
     も読んでわかるものなんだよ』って言って”警備努む日に焼けにけり圓朝
     忌”と直して、留守電に入れてやった」
   扇橋「さすが、親子の情だね」
   圓窓「情じゃないよ、あまりにも情けないからさ」
   扇橋「そこで、あたしも直そう。あの日の句会は臨時に"圓朝忌"を季語に決
     めたんだから、”日焼け”を入れると季重なりになってしまう。そこで、”
     つよき陽にまみれ警備の圓朝忌”に直したんだ」
   圓窓「窓輝が『僕の句は”警備”だけになった』って言ってたよ」
   扇橋「和歌も俳句も教えの真髄は[鼓が滝]さ」


  舌耕と無舌とを知る圓朝忌      扇遊


   圓窓「舌耕と無舌を並べるところは、学があるな」
   扇橋「扇遊は伊豆のほうの高校だから」
   圓窓「伊豆のほうの学校はいいのかい?」
   扇橋「そんな感じがするだろう?」
   圓窓「しない、しない。江川太郎左衛門の名前は知っているがね」
   扇橋「そうそう。その人の出た高校」
   圓窓「嘘をつけ!」


  語りつぐ心つたへむ圓朝忌      扇橋


   圓窓「さすが、光石宗匠。直しようがないね」
   扇橋「はな、"聲そろへ"だったんだ。やはり噺だから、"語りつぐ"に」
   圓窓「どっちでも、さすが!!」
   扇橋「よせよ」


  圓朝忌勘九郎より花ありて      圓窓


   扇橋「勘九郎さんからの花あった?」
   圓窓「あったさ、本堂に」
   扇橋「知らなかった」
   圓窓「木挽町の夏芝居で圓朝物を出しているからでしょう」
   扇橋「ああ、そうか。この句、”圓朝忌”を上にもってったてぇのはいいね」
   圓窓「それと、あたしにはいい思い出があるんだ」
   扇橋「どんな」
   圓窓「あたしが二つ目の頃だったか、真打になりたてだったか、末広亭の高座
     に上がったら、二階席の正面に勘三郎、勘九郎の親子が座ってんだよ」
   扇橋「勘九郎が可愛い頃だ」
   圓窓「目をクリクリさせながら。まだ、子供でよく理解はできないから、余所
     見ばかりしてた」
   扇橋「それだけ?」
   圓窓「あたしが[湯屋番]を演って、中に歌右衛門と勘三郎の声色を入れたん
     だよ」
   扇橋「へーー? どうしたい?」
   圓窓「キョロキョロしてたんだが、急に真剣な眼差しを高座へ向けてきたよ」
2002・9・2 UP