圓窓五百噺ダイジェスト(も行)

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元犬(もといぬ)

圓窓五百噺ダイジェスト 79 [元犬(もといぬ)]

 蔵前八幡の境内に住みついた白犬。参詣人に「シロ、シロ」と可愛がられ、「来世
は人間に生まれ変ってくるんだよ」と言われていた。白犬は「今、人間になりたい」
と思い立ち、八幡様に三七、二十一日の間、裸足詣り。
 満願の日。拝んでいると、サァーと吹いて来た風に体の毛が抜けて人間の姿になっ
た。が、裸なので、奉納手拭いで前を隠す。
 そこへ桂庵(職業紹介所)の上総屋の吉兵衛が通りかかったので、仕事の斡旋して
欲しいと頼む。吉兵衛はこの男が誰だかわからないが、何かの縁と思い、家へ連れて
帰り、着物を着せて落ち着かせる。
 ところがこの男、すること、なすこと、犬の習性が残っていて、家中は騒然とした。
腹を空かしているようなので食事を与えると、この男はがつがつと食べ始めた。
 吉兵衛はある隠居から「話し相手にとぼけた可笑しい人をさがしておくれ」という
依頼があったことを思い出して、そこへ世話しようと連れて行くことにした。
 男はお替りをしようとしたところであったが、吉兵衛は「先方へ行けば馳走はして
くれるだろうから、お替わりはやめなさい」と言う。
 先方へ行っても男は犬の習性が出て、「名前は何という?」と訊かれて「シロ」と
答える。「なに四郎だい?」「ただ、シロです」「只四郎? いい名だね」と隠居も
大喜び。
「お茶を入れておくれ。火鉢の鉄瓶がチンチンいってるよ」と言われ、思わず、両手
を上げて、チンチンの形をして見せる。
「そこの焙炉(ほいろ・茶を焙じる道具)をとってくれ」と言われ、いきなり「ウウ
ー、ワンワン」と吠える。
 隠居は男のあまりの奇妙な行動に驚いたが、「この人をしばらく預かって、様子を
みましょう。雇うかどうかは、それから決めましょう」と吉兵衛に言う。
 吉兵衛は男に「お前さんはしばらくはお預けの身だよ」と言う。
 男は「お預け? やっぱり沢山食べてくればよかった」

(圓窓のひとこと備考)
 本来の落ちは、男の奇行に驚いた隠居が「おい、もとや。もとはいないか? もと
はいぬか?」と女中を呼ぶ。と、男が「ええ、今朝ほど人間になりました」と言うの
である。が、女中の名前を「もと」とする無理矢理なところがあり、いい落ちとはい
えない。そこで、あたしの改良となったのだが……。
2006・8・15 UP