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千早ふる(ちはやふる)/茶の湯(ちゃのゆ)/町内の若い衆(ちょうないのわかいしゅう)
圓窓五百噺ダイジェスト 50 [千早ふる(ちはやふる)] |
八五郎が娘から歌の意味を教えてくれと言われたが、わからないので隠居宅へ教わ りに行く。それは百人一首の在原業平の歌で「千早ふる神代も聞かず竜田川 唐紅( からくれない)に水くぐるとは」。 訊かれた隠居にもわからない。ところが、プライドが強くて「わからない」とは言 えなくなってしまい、苦し紛れに珍解釈を言い出した。 「竜田川という相撲の大関が吉原の夜桜見物。当時、全盛の千早太夫の花魁道中を見 て心を奪われる。『あの千早太夫を座敷に呼べないか』と思い、お茶屋に掛け合って もらった。 ところが、千早は『わちきは相撲取りはいやでありんす』と断わる。ならばと、妹 女郎の神代太夫に声を掛けると、「姉さんの捨てたもの、わちきが拾う謂れはありん せん」と断った。 屈辱を味わされた竜田川はすぐに相撲をやめて、田舎へ帰って豆腐屋になった。 三年のときが過ぎ、ある夕まぐれ。竜田川の豆腐屋の前に、一人の女乞食が立った。 『ひもじくてなりません。卯の花なりとも恵んで下さりませ』 竜田川がその顔を見て、驚いた。 その乞食こそ誰あろう、三年前、大関を振った、かの千早太夫のなれの果てだ。 カァーッとなった竜田川は思わず千早の肩を突いた。 千早はよろけるように後ずさりすると、店の横にある井戸へ落ちて、あえなく息は 絶えにけり」 聞きほれた八五郎は「このあと、千早の幽霊になって出てくるんでしょう」 「腹が減っていたから、出られない」 「では、妹がやってきて、姉の敵討ちになるんだ」 「妹も出てこない。これで、終わりだ」 「妙な終り方だなぁ」 「妙もニャオーもないよ。これは歌の訳だ」 「え!!! 歌の? 訳?」 「千早が竜田川を振ったから、『千早振る』。妹の神代も言いなりにはならなかった から、『神代もきかず竜田川』。三年後、竜田川は千早に卯の花をやらなかったから、 『からくれないに』。井戸に落ちたんだから、『水潜るとは』だ」 「『水潜るとは』というその『とは』って、なんです?」 「千早の本名だった」 (圓窓のひとこと備考) 五代目の小さんがよく演っていた。 あるとき、どこかの女学生から丁寧な手紙がきた。 開いて読んでみると、「ラジオで師匠の[千早振る]を聞きました。しかし、あの解 釈は大変な間違いです。『千早振る』は神につく枕詞で『ちはやぶる』と発音すべき です」と始まって、古典文学上の解釈を連綿と書き続けられていたという。 国文学科に籍をおく者なのだろう。本来の解釈がわからない人をみて、いらいらし て抗議のつもりで筆をとったようだ。 しかし、洒落のわからない者も、こまったものである。残念ながら、こういう人た ちは年々ふえている。 |
2006・6・28 UP |
圓窓五百噺ダイジェスト 19 [茶の湯(ちゃのゆ)] |
店は若い者に任せて、根岸の里にて余生を送ろうという隠居が何か風流なことをや ってみたいと、思いついたのが茶の湯。 ところが、茶の湯の心得は全く無い。 小僧の定吉に相談して買いに行かせたのが「青黄粉(あおぎなこ)」。これにお湯を そそいでかき回しても、泡が立たない。そこで、次に買いに行かせたのが「むくの皮」。 泡は立ったが、とても飲めたものではない。我慢して飲んだところ、たちまち腹下し。 この主従はこの茶を近所の人を招いて飲ませることにした。 何度も招かれて困惑している客は上等なお菓子だけを目当てにやってくる。 やがて、隠居は菓子屋への払いがバカにならないのに気づいた。そこで、自家製の 菓子を作ることにする。芋を原料とし饅頭のようなものを作り、名も「利休饅頭」と 洒落るが、これがまたひどい味で食べられる代物でない。 ある日、初めての客を招いて、「青黄粉」に「むくの皮」の「お茶」を飲ませてた。 客は飲もうとしたが、まずくて喉を通らない。あわてて「利休饅頭」を口直しに頬張 ったが、これまた、ひどい味で飲みこめない。 便所へ行く振りをして中座し、その菓子を縁側から垣根の向こうの畠に向かって放 り投げた。 その菓子は働いていたお百姓の顔にペタッとぶつかった。 百姓は頬についた汚れをとりながら、「また、茶の湯、やってんなァ」 |
2001・5・31 UP |
圓窓五百噺ダイジェスト 23
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熊さんが、兄貴分のところへ顔出しをすると、生憎と留守でお内儀さんが相手する。 気が付くと、裏で建増しの普請の真っ最中。 「たいしたもんですね。この木口の高いときに普請とは。こちらの兄貴は働き者です ね」 「いいえ、町内の若い衆さんが寄ってたかってこしらえてくれたようなものです」 これを聞いて、一層感心した熊さん。家へ帰って女房にこの話をして「お前には言 えないだろう」というと「言えるよ。普請してみろ」という言葉が返ってくる始末。 あきれ果てて、湯へ行こうと出掛けると八っつぁんに会ったので、一計を企てる。 「すまねぇが今、家へ行って、かかあに家の中のことを褒めて、『こちらの熊さんは 働き者だ』と言ってくれ。それで、かかあがどういう返事をするか、あとで聞かせて くれ」と頼む。 八っつあんは熊さんの家へ行って何か褒めようとするが、何もない。気が付くと女 房が臨月間近のお腹をしているので、 「この物価の高い時期に、子供をこしらえるなぞ、熊兄ぃは働き者だ」 「いいえ、うちの人の働きじゃありません。町内の若い衆が寄ってたかってこしらえ てくれたようなものです」 |
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2001・6・21 UP |