圓窓五百噺ダイジェスト(と行)

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唐茄子屋(とうなすや)/道灌(どうかん)

圓窓五百噺ダイジェスト 45 [唐茄子屋(とうなすや)]

 勘当された若旦那の徳三郎、泊まり歩く知り合いもなくなって、吾妻橋から身を投
げようとしたところを、通りかかった叔父さんに引き止められ、達磨横丁の叔父宅へ
連れていかれる。
 叔母はびっくりしたり喜んだりして「早速、徳の大好きな鰻を誂えて食べさせまし
ょう」と言い出すのを始めとして、その後、ことあるごとに「鰻を食べさせましょう
」と言い出すが、その度に叔父は「贅沢をさせるな」と止める。
 今までの放蕩を悔い真面目に働くことを誓った若旦那、翌日、叔父さんが調えてく
れた唐茄子の荷を担いで売りに出る。
 炎天下、浅草広小路で荷の重さに耐えかねて大道に倒れてしまう。
 しかし、そこの町内の若い人が助けてくれて、唐茄子をあらかた売ってくれる。
 若旦那、二つ残った唐茄子を売ってしまおうと、売り声の稽古がてら吉原田圃の畔
道を歩く。
 向こうには、吉原の屋根が見える。
 売り声の合間に、その頃の思いを振り切って歩いて、夕方、誓願寺店(せいがんじ
だな)へやってくると、貧乏長屋から出てきた浪人の内儀に「唐茄子を、一つ……」
と声を掛けられた。
 一つおまけして荷を空にすると、お湯を貰って持ってきた弁当を食べようとした。
 弁当を開くと、そこの子供が食べたそうな目でじーっと見て「おまんま、おまんま
」と言い出した。
 内儀が恥ずかしながらに「夫は浪人の身。『金策に』と家を出てひと月戻ってこな
い。
 子供は満足な食事もしていない」と言う。
 もらい泣きした若旦那は売り上げの入った財布を投げるように渡すと、叔父の所へ
帰った。

「売り上げは可哀想な親子にやった」という若旦那の言葉を確かめるために、叔父は
若旦那を案内をさせ一緒に誓願寺店へ行く。
 来てみると、長屋の様子が可変しい。
 隣の婆さんが言うには「あのあと、あなたからいただいた財布は、大家が『店賃が
溜まっているんだから』と持って行ってしまった。お内儀さんはあなたに申し訳ない
と、梁へ紐をかけて首をくくって死にました」と。
 これを聞いて、怒った若旦那。大家の家に乗り込んで怒鳴りながら大暴れ。
 ことの次第を知った叔父も、懐の金を香典として長屋の者に手渡した。
 二人は焼香をして、その長屋を出た。
叔父「徳。腹が減ったなぁ」
徳三「へぇ……」
叔父「ひとっ走り先へ帰って、ばあさんに『なんでもいいから、飯の支度を』と言っ
  ておくれ」
徳三「はい」
    若旦那は川っ淵を小走りに駆け出した。達磨横丁の長屋に吸い込まれると、
徳三「おばさん! 今、帰りました! おじさんが『なんでもいいから、おまんまの
  支度を』って、……、ああ……、鰻の匂い……」

(圓窓のひとこと備考)
 この噺は「たぶん、講釈から移入されたものだろう」と長年に亘って思っていたら、
井原西鶴の作品の一つ[本朝二十不孝]の中の短編[古き都を立ち出て雨]がこの噺
と似ているのには驚いた。
 興味のある方は読んでください、驚きますから。
2006・6・25 UP




圓窓五百噺ダイジェスト 5  [道灌(どうかん)]

 八っつぁんが隠居の家を訪ねたとき、床の間の掛け軸の説明を聞いた。太田道灌の鷹狩
の図で、娘が山吹の枝を道灌に差し出している絵である。
「道灌が山吹の里で狩りの途中、雨に会った。雨具を借りようと、一軒の貧しい家に立ち
寄った。その家の娘が『お恥ずかしい』と言いながら山吹の枝を差し出した。これは、雨
具がないので、お貸しできないとの断りを現している場面だ。
 これはずーっと昔、兼明親王(かねあきら・しんのう)が雨具を借りにきた者へ、山吹
の枝を折って与えて帰したことがある。その人があとで『どういう意味ですか』と訊きに
きたので、返事として[七重八重花は咲けども山吹のみの一つだになきぞ悲しき]という
歌を詠んでやった。[実の]と[簑]を掛けて『雨具がございません』ということだ。こ
の故事は[後拾遺和歌集]に載っている。
 それを知っていた娘がとっさのトンチでおこなったことなんだ。
 しかし、道灌にはその古歌も娘の意図もわからない。家来がその説明をすると、道灌は
『余は歌道に暗い』と気づき、その後、歌を懸命に学んで一流の歌人になったんだ」
「あっしも傘を借りに来たやつをその歌で断わるから、紙に書いてくんねぇ」
 八っつあんは、その紙をもらって帰る。
 帰宅すると、うまい具合に雨が降り出した。そこへ、友達が「提灯を貸してくれ」と飛
び込んでくる。
「傘を」ではなく、あてがはずれたが、どうしてもあの歌を使ってみたいので、書いても
らった紙を差し出して、相手に読ませる。
「なんだい、これは。なけりゃ食へ 腹は空けども 鰹節の 味噌ひと樽と 鍋と釜敷…?
これは勝手道具の都々逸か」
「これを知らないところをみると、歌道に暗いな」
「角(歌道)が暗いから、提灯を借りに来た」

1999・11・13 UP